――天皇賞・春の結果はメジロマックイーンが長距離王者の貫禄を見せ付けて2強対決で決着が付くと思われていたレースをあっさりと終わらせる。
トウカイテイオーは5着と敗れ、連勝が途切れた上にレース後に骨折が判明してしまう。
2度目の長期休養となりその点が非常に残念な出来事だが、天皇賞・春を2連覇したメジロマックイーンを賞賛するべきである。
長距離王者らしく、正攻法として3コーナーから早めに先頭に立って後続を突き放してしまう程、堂々とした走りを見せ付けたのだから。
天皇賞・春が終わった翌日――月曜日に発売された競馬新聞には、土曜日と日曜日の結果や出来事が纏められており、その中に谷川岳Sの結果も。
その結果はサイレントアサシンが低人気を覆す走りを見せ付けて、2着馬に1馬身の差を着けて逃げ切り勝ち。
サウンドワールドは徐々に伸びたが、切れ味が劣っていたのでサイレントアサシンから5馬身差ほどの4着。
サイレントアサシンは格上挑戦だったので、この結果でOPクラスに昇格して1600万下を跳び越してしまった。
フロック勝ちの意見も出ているが、10番人気の逃げ馬だったのでノーマークで逃げ切りやすい状況だったと言える。
その評価を改めさせるには次走のOP戦で試させられる事になるだろう。
「随分と久しぶりの勝利でしたね」
「1年と約3ヶ月振りだからな……勝てるとは思わなかった」
前走は2着になっていたとは言え、今回は格上挑戦+約4ヶ月振りの出走だったのだから惨敗の方が可能性は高い。
やれやれ、と秋名は肩を竦めつつ、本年度発売の種牡馬辞典を披き直して血統や成績を加味していく。
秋子は繁殖牝馬の血統図を頭の中で作成しているようで、暫くは眼を瞑ったまま。
「また、今年もアウトブリードか?」
「……そのつもりですけど」
秋名としては、偶にはインブリードの配合を行いたい様だが、秋子としては簡単に頷くつもりは無いようだ。
今の牧場経営がまだ安定していないので、リスクの方が大きいインブリードは行い難い。
コツコツと賞金を稼いでくれる馬の方が秋子にとっては重要であり、現時点の優先度に差があるだけ。
「リスクを犯してインブリードはしてみたいんですけど、勘と言うかピンとこないんですよ」
なるほど、と秋名自身も勘が直結して良い事の方を選択した事が度々あるので、勘が反応しないなら仕方ないといった表情を覗かせる。
秋名が納得した事で、今年4頭の繁殖牝馬の相手――配合が完全に決定する。
フラワーロック×ルション。
ルションは名種牡馬リヴァーマンの血を引く直系の子であり、自身もマイルG�気鮴�覇している。
ファントム×アレミロード。
リボーの血を引くトムロルフを父に持つアレミロードはジャパンカップで2着になった実績を持つ。
そして、今年から繁殖入りとなる2頭の牝馬には以下の配合となった。
エレメントアロー×スキャン。
血統構造の父と母父がウインドバレーに近く、母は欧州種牡馬のカーリアンの全妹。
ルリイロノホウセキ×クリスタルグリッターズ。
クリスタルグリッターズは中距離のフランスG�気任△襯ぅ好僉璽鷯沺宗州隠牽毅娃蹐斑翕喩消爾淵譟璽垢鬘臆鸚�している。
最も適した配合相手を選んでいるつもりだが、配合は何万、何千万と決して終わりが無い計算式。
そして、新繁殖牝馬がどれだけ安定して仔馬を産むかが現時点の不安であり、クイーンキラのように不受胎→死産のコンボは問題である。
これがクイーンキラが売却された理由の1つであり、購入者の牧場ならば環境によってはKanonファームよりも生産率が高いかもしれない。
「さて、ちゃんと受胎すると良いんですが」
「こればかりは完全に運任せしかならないし、祈るくらいしかする事は無いだろ」
受胎するかしないかで、今年1年の繁殖牝馬を空胎のまま牧場に置く事になり、無駄な経費だけが飛んでってしまう。
秋名は肩を竦めつつ、いつもの事だろうと言いたげに眼を細めてしまう。
秋子もその事は分かっているだろうが、何も言わずに刻々と小さく頷くだけであった。
「まだ、自家製産馬では重賞勝ち馬がいないのも寂しいですから、この中から出ると良いですね」
「今の所有馬の中では厳しいわけか」
生産馬の中でOPクラスの馬はサイレントアサシンとサウンドワールドの2頭。
それなりの成績を残しているとは言え、お互いに5歳馬なので来年には引退予定なのだから。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:ルション……ムーランド・ロンシャン賞を勝利している。
注2:リヴァーマン……フランスリーティングサイアーにもなっている名種牡馬。
注3:トムロルフ……プリークネスSの勝ち馬。
注4:スキャン……伯父にカーリアンがおり、短距離付近の勝利が多い。
注5:カーリアン……欧州で名種牡馬の1頭に数えられる成績を持つ。
注6:クリスタルグリッターズ……ブラッシンググルームを父に持つ。