――今週の競馬は天皇賞・春が京都競馬場で行われ、2強対決――メジロマックイーンとトウカイテイオーが最強馬を決める争いになる。

     距離に分があるのは長距離王者であり、菊花賞と去年の天皇賞・春を勝利しているメジロマックイーンに軍配が上がるだろう。

     ただ、人気になっているのは新馬戦から7連勝中のトウカイテイオーなので、連勝を期待されて1番人気に支持されている感じ。

     現状の実績ではメジロマックイーンの方が人気になりそうだが、去年の秋でG�毅穫�敗の印象がファンの頭の中に深くインプットされているのだろう。

     他のメンバーは日経新春杯の勝利馬カミノクレッセや、有馬記念馬のダイユウサクがいるがこの2強とは差がありすぎて厳しいだろう。

     と、競馬新聞には主に天皇賞・春に関する展望などが書かれており、裏開催のページはあまり取り上げられていない状態。

     まぁ、天皇賞・春以外の同日に行われるOP戦は新潟の谷川岳Sしかないので納得なのだが、所有馬がそのレースに出走するとなると寂しさが募る。

     谷川岳Sに出走するのは格上挑戦でのサイレントアサシンとサウンドワールドの両頭。

 

    「久しぶりの出走ですが、どれくらい走るかしら?」

 

     体調面を新聞の短評で見てみると、両頭共に乗り込みは十分と書かれており調教評価はBとなっているので悪くは無いようだ。

     ここまで休養していたのは、適正レースが少ない事と冬場の調教で馬体重が絞れなかった事が理由に挙げられる。

     そして、現時点の人気は以下の通り。

     サイレントアサシン……△、−、−、△、注。

     サウンドワールド……▲、▲、△、−、−。

     最低人気まではなっていないが、近走の成績から考えるとこの評価は妥当と言えるし、ちょっとばかり勝ち目があると予想も出来る。

     4ヶ月近くも未出走だった事を考えると、十分な印の付き具合とも言えるのだが、競馬は人気で走るものではない。

 

    「お、久しぶりに2頭が出走するのか」
    「ええ、来週以降も徐々に始動する馬が増えてくる筈ですので、楽しみがあると思いますよ」

 

     ひょっこり、と秋子の肩越しから競馬新聞を眺める秋名は、印を見て納得した様で小さく頷いている。

     正直に言うと、Kanonファームの生産馬の勝利数は現時点で2勝しかしていないので、本音としては勝利が欲しい所だろう。

     まぁ、今週の谷川岳Sではちょっと厳しいのだが。

     来週以降なら、チャンスがあるかもしれないので待ちの一手しかない。

     秋名はある程度、新聞の一覧を見終わると手に持っていた馬が芝の上を駆けている絵柄が描かれたコーヒーカップを秋子に手渡す。

     一言お礼を言いつつ、秋子はコーヒーカップに口を付けて指先でOKサインを作り、秋子好みの濃厚な味だったようだ。

 

    「これくらいの味なら、十分いけますよ」
    「そうか、それなら良かった」

 

     秋名はもう一方の手に持っていたコーヒーカップを口に付けつつ、指先――人差し指と中指に煙草を挟んで一服。

     紫煙を吐き出す時の顔は至福そうであり、コーヒーを飲んでいる秋子もそう言った点では同じような表情。

 

 

     それぞれの方法でリラックスをしていると、1本の電話が掛かってきたので一時的にティータイムが消滅。

     秋子が電話を取ると嫌そうな表情を浮かべているが、対応の為に口調だけはキチンとしている。

 

    「何度も言いますが白毛馬を売る気はございません」

 

     つい数日前から毎日同じ時間、同じ内容を行っており、電話相手は白毛馬を譲って欲しいと訴えてくる秋子が知らない馬主。

     出来る限り秋子は感情を抑えて、説明を行っているが相手も簡単に引き下がらずに平行線を辿っている。

     その馬主が白毛馬を欲しがる理由は2つ。

     1つは滅多に産まれる事が無い毛色なので、喉から手が出る程欲しいのが理由。

     2つ目はビジネスとして――白毛馬の縫いぐるみなどで売り、独占販売する為でもある。

     2年前――1989年の有馬記念ではオグリキャップの引退レース+勝利した事で、この期から馬の縫いぐるみがブームになってしまった。

     それに乗るように白毛馬の縫いぐるみを販売したいのが、その馬主の本心だろう。

     2次収入として儲ける事は可能だが、実績の無い馬の縫いぐるみなどを販売されてはKanonファームの評価が変わってしまう。

     そうなると、今まで築き上げた物が崩れ去ってしまうのだから秋子は断固として反対している。

 

    「ですから、諦めてもらえませんか?」

 

     毎回同じやり取りを行っているので、秋子もうんざりしているし徐々にだが、こめかみ付近には青筋が浮かんできている。

     秋子は自身が切れ掛かっているのが分からないのか、だんだんと語尾が強くなっていくので秋名が秋子の傍に近付き耳打ちする。

     その言葉で少し、落ち着いたようだが未だに青筋は浮かんだままであった。

     何とかこの日も拒否を貫き通したが、後日も電話しますと言われて秋子は叩きつけるように受話器を戻した。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。