未だに雨は降り続けており、時間が立てば立つほど土砂降りになり雨音が甲高くなっていく。

     TV画面からでは馬場の荒れ具合は良く分からないが、飛沫が跳ねている事から馬場状況は最悪に近いと判断出来る。

     そして、蒸気でガラスが曇った様に競馬場は雨の中に包まれており、降雨量が激しいのでコースの先は霞んで見える程。

 

    「おいおい……これじゃあ、どんな結果になるか予想出来ないぞ」
    「下手すると、もしも皐月賞の切符を掴めても休養の覚悟が必要となりますね」

 

     秋名はTVを見ながら、この雨に関する事をぼやいており、同様に秋子もげんなりとしていた。

     こうなってしまえば馬場は殆ど関係ないので、如何に濡れた芝の上を上手く走るかが争点である。

     そして、勝利したとしても疲労が溜まりやすい皐月賞出走時には疲労が累積してしまっているかも知れない。

     若葉Sから皐月賞まで1ヶ月近く間隔が開くが、見えない疲労によって圧倒的1番人気馬がG�気杷圓譴襪里脇�常茶飯事。

 

    「……短期放牧も考えておきますか」
    「その方が良いだろうな」
    「名雪と祐一君もそれで良いわね?」
    「ちょっと残念だけど仕方ないね」
    「故障されるよりは、放牧に出した方がマシです」

 

     と、満場一致でレース後に放牧する案が可決され、ひとまずは安心してレース観戦が出来る。

     結果はともかく、土砂降りの雨が降り続けていると濡れた芝に脚を滑らして障か脚に熱を持ってしまうかもしれないのだから。

     なので、4人が選択した事は誰も責める事は出来ない。

 

 

     そうこう話している内に、レース直前の時間になり誘導員に曳かれながらゲート周辺を回っていた馬が順次にゲート入り。

     ウインドバレーは7枠8番――偶数なので、奇数番号がゲート入りしてから 入る。

     悠然とウインドバレーはゲートに入り、最後の8枠10番のナリタタイセイが入ってから数秒後に特有のゲート起動音を立てながらスタート。

     特に出遅れた馬はいないが、飛沫を飛び跳ねさせながら駆けているので既に勝負服は小さな泥の斑点がいくつも出来上がった。

     若葉Sは阪神競馬場で行われ、距離2000mなのでスタンドの目の前を通過するので、入れ込まない様に細心の注意が必要。

     歓声が雨音に負けない勢いで響いており、その声に反応して掛かった馬がいたが上手く騎手が宥めて事なきを得ていた。

     ウインドバレーはやや外に持ち出して、5〜6番手辺りで先行勢を窺っている状態だが、泥を被っているのでその点では何処に居ても変わり無い。

 

    「現状では取り合えず、ついて行けていますね」
    「ああ、問題は直線に入った所でキチンとスパート出来るかだな」

 

     この土砂降りの雨が降り続けているお陰で良馬場の芝を走るよりは、マシの様で順調に疾走中。

     ウインドバレーを含めた10頭立てなので、仕掛け所を一瞬でも遅れてしまうと、デビュー以来芝のみを専念してきた馬に敵うのは厳しい。

     ならば、騎手が選ぶ手段は1つのみに絞られる。

     この状態――不良馬場を配慮しての早仕掛けで押し切るのが、1番チャンスがある作戦だろう。

 

    「仕掛けるなら……残り1000m位から徐々に上がって、600mから仕掛けかな?」

 

     名雪は眼をジッと細めて、獲物を狙う様な視線で騎手の動きをTV越しでも見逃さないように見据えている。

     右手の拳を顎に乗せて頬杖をついているので見知らぬ相手からでは、ふてぶてしく映るだろうが競馬を見ている名雪にとってはいつもの事。

 

    「1000mの通過タイムは……1:00.2か。この馬場なら納得だな」

 

     祐一はTVから流れたアナウンサーの音声でレースの展開が分かったのか、小さく頷いてレースを見やる。

     逃げ馬が1頭飛ばして走っているのだが、不良馬場なので思いっきり突き放せず2番手以降の馬と差は4馬身も無い。

     スルスルと、このペースでは中団付近では厳しいと感じたのかエアジョーダンの騎手が手綱を微妙に扱いている動きが映し出される。

     ウインドバレーの騎手はまだ待っているのか、仕掛ける事は無くジックリと脚を溜めているのだろう。

     そして、3コーナー過ぎから徐々人気上位の3頭――ウインドバレーを除きマヤノぺトリュース、セキテイリューオーが仕掛ける。

     その直後からはナリタタイセイがウインドバレーの真横から上がっていく。

     逃げ馬は4コーナーに入った直後に脱落し、ズルズルと下がっていき2番手以降の馬に交わされていく。

     ウインドバレーは5〜6番手から8番手に下がっており、一気に最後方の方になってしまう。

     残り300m。

     ここで仕掛けられるウインドバレーは今いる場所よりも僅かに外に持ち出されて、徐々に伸びているのだがダートよりも切れ味が劣っている。

     先頭争いはセキテイリューオーが一歩抜け出して、更に差をつけようとして鞭に反応して鋭く伸びてしまう。

     これで1着は決定した様なもので、残るチケット1枚を争い2着を目指して鞭と手綱を扱く騎手。

     ウインドバレーはゴール直前に伸びたのだが、僅かに届かない5着に敗れチケットは得られなかった。

 

 

     戻る     ← →

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。