ジワジワと強い日差しが北の大地――北海道の日高地区を照らしており、真夏日が到来した。
本土に比べると気温は高くないが、体感的には22℃前後の暑さを示せる辺り。
そして、周辺の木々からは――ジジジジ、と夏の暑さを倍増させる様にアブラゼミが鳴いていた。
勿論、木々に止まっている他の蝉も雌を呼ぶために、甲高い音を鳴らして周辺は合唱が行われてしまっている。
そんな中では誰もがイラつく事態になってしまうが、蝉はお構いなく毎日毎日と同じ音程の大合唱を続けていた。
Kanonファームの広大な土地の中にある住居区――家では蝉の鳴き声を無視したい為に、トントンとテーブルをリズム良く人差し指で叩いている人が。
その人物の眉間とこめかみには大きな怒りマーク――青筋が漫画の様に浮かんでおり、蝉の鳴き声に対して限界が近いようだ。
「ああ、もう暑くて煩くてたまりません」
意外な事にイラついているのは秋子であり、秋名はやれやれと肩を竦めてのんびりと真夏と蝉の鳴き声を満喫していた。
「喋っている方が暑くなって煩くならないか?」
秋名はジッと競馬番組に視線を向けたまま秋子に質問をするが、返答は詰まり詰まりながらだった。
「姉さんは平気なんですか?」
「そりゃあ、あの乱立したコンクリートビル群の地獄で過ごしたからな」
蝉の煩さにはなれないが、と一言付け加えてからテーブル上に置かれているアイスコーヒーに手を伸ばす。
ふと、TVに視線を移すと今週の新馬情報と言うコーナーが始まっており新馬戦を勝利した2歳馬が表示されていく。
接線で制した馬もいれば、圧勝で勝利を飾った2歳馬もいる。
ウインドバレーはどちらかと言うと圧勝勝ちに分類されるが、どの馬も2戦目から正念場だろう。
この時期はまだ2歳500万下のレースは行われていないので、次走のOP戦で本当の強豪と当たる馬もいるのだから。
因みに今週は父アンバーシャダイ母エターナル産駒のサンシャインレディーが出走した。
のだが、12頭立てで4着と父の成長力に反してこの時期から4着とは良い方と言える結果。
しかも距離は1200mと短距離戦で、この結果は父と母父である長距離適正を覆す事になった。
「負けたけど……意外な結果だったな」
「そうなんですよね。もうちょっと距離が長い方が良いかと思いましたが」
サンシャインレディーの姉エレメントアローと兄サウンドワールドはそれぞれ1800m以上の距離で成績を上げている。
未勝利であるがミストケープも現時点では2000m以上のレースで入着を繰り返していた。
「そういえば、同じ父のメジロライアンもこの時期の1200mで2着だった事を思い出しました」
ポンと手を叩きながら、秋子はその影響があるからと自身の持論を述べると秋名も軽く首を上下に振り同意する。
それから暫くの間は、所有馬に関するローテーションの議題が行われ始まる。
そして、結果は以下の通りになった。
エアフリーダムとエレメントアローは来年で6歳――旧年齢で7歳馬になるので今年一杯で引退。
サウンドワールドはマイル戦を目標に出走する事が確定しているので、後は順調に秋まで調教を課すだけ。
サイレントアサシンは1000万下を卒業して、昇格する事が第一の目標。
ミストケープも同じように未勝利脱出に力を入れるしかなく、11月まで未勝利だと今年一杯で引退するのが確定する。
ルリイロノホウセキは1勝でもしてもらわないと、早熟と言う事になってしまうので引退の可能性が上がってしまう。
ウインドバレーは中央ダート戦に出走させたいが、実際は中央競馬の2歳戦にはダート重賞は1つも無いので遠征するしかない。
最終的には北海道2歳優駿から全日本2歳優駿を目指すローテーションになるだろう。
距離はそれぞれ1700mと1600mだが、新馬戦の走りを見る限り2000mまでの距離延長は問題なさそうだろう。
「10月に行われる北海道2歳優駿までは厩舎で調教か?」
「その予定で行くみたいです。現在は函館の厩舎に滞在していますから暑さは問題ないと思います」
なるほど、と秋名が頷いた時に騒々しく玄関が開き放たれた音が響いて、名雪と祐一が姿を現す。
手には小型サイズのトロフィーが1つずつ所持されており、草競馬大会で優勝したことを示す証拠。
「これで2連覇達成したぞ」
「ちょっと厳しかったけど、わたしも2連覇したよ」
ガッチリとマークされていたからと、名雪は感傷深く原因を述べると反省をするが前回の優勝者なのだから、マークされても当然だろう。
今までの常連であった、川澄舞は今年から中学に入学しているので草競馬は中学生部門で騎乗していた事もあるのでマーク相手が変わるのは仕方ない。
つまり、名雪と祐一は小学生部門での騎乗はこれが最後であり、その分感傷深くなるのも当然だった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。