ウインドバレーが新馬戦を4馬身差の圧勝を見せ付けた事で、ミスタープロスペクター系が日本で評価される出来事になった。
ミスタープロスペクターの事は日本でもアメリカの影響力がそれなりに知り渡っているが、懐疑的に見られる事もまだまだ根付いていた。
そこにウインドバレーが新馬戦のパフォーマンスを見せ付けた事で、評価はうなぎ上りして、その余波が種牡馬までに及ぶ。
日本に輸入されたミスタープロスペクター系の代表的な種牡馬はキンググローリアスとジェイドロバリー。
ジェイドロバリーとウインドバレーは父と母父が一緒なので近い構造をした血統と言えるから、来年度の種付け申し込みが僅かに増加したようだ。
日本ではダートを主戦場する種牡馬の数が少なく、圧倒的に芝を主戦場としている種牡馬の方が多いのは事実。
ダート戦を主戦場としている地方馬の台頭で、中央G�気離献礇僖鵐�ップダートとフェブラリーSは地方馬と海外馬に奪われている状態。
中央馬のダート権威を得るために早急に必要なのが、ダート向きの種牡馬を探す事であった。
ウインドバレーの勝利によって、ミスタープロスペクター系の種牡馬が日本のダートでも走ると言う事を示したのである。
「これでダート路線への足がかりが出来ましたね」
「ああ、完勝だったな……ウインドバレーなら重賞制覇してくれるか?」
ダート路線でだがな、と秋名は付け加えてか、テーブルに置かれているグラスを口につけて、琥珀色に輝くウィスキーを呷る。
ほんのりと桜色に上気した頬が艶かしく、大人の女性である雰囲気を醸し出していた。
秋子も秋子で、オン・ザ・ロックでゆっくりとウィスキーの味を楽しんでいるようだ。
いつもの様に1つにまとめている三つ編みは解かれ、サラリとした艶のある髪が秋子の動きに合わせて揺れている。
「まぁ……ウインドバレーにミルクやりを2人にやらせて良かったな」
育成牧場と厩舎では身体能力と精神面を鍛える為の場所であり、牧場では性格面を育てるのがメインとも言える。
馬の性格は人と同じように様々であり、その過程で担当スタッフに似る事が度々起こる。
産まれた時からある程度の性格は出来ているが、本格的に変わるのが担当スタッフと一緒にいる頃だろう。
そういう意味では、名雪と祐一にミルクやりなどを行わせた事が今回の結果に繋がったと言える事柄。
純粋な子供心なら馬は人を信頼する事を覚えやすいだろうし、先入観を持った秋子と秋名では逆の結果になっていたかもしれない。
ウインドバレーの性格を造り上げた功労者の2人――名雪と祐一はソファーの上に寝そべっており、肩にはタオルケットが掛けられている。
「やはり、酒はまだ早かったか」
「当たり前ですよ。いくら何でも、2人が育てたからってお酒を勧めるのはどうかと思いますよ」
秋子は一瞬だけ、ソファーの上で寝そべっている名雪と祐一に視線を向けてから、深く嘆息を吐いてしまう。
実際は秋子は止めるために行動したのだが、秋名の方が一瞬だけ早く名雪と祐一に酒を勧めてしまった。
その結果は、不承不承になりつつもグラスになみなみと大量に注がれたウイスキーを飲む2人の姿が。
祐一はチビチビと少量ずつ顔を歪ませながら飲んでいたが、名雪は祐一と真逆に一気飲みで呷ってしまう。
ほろ酔い気分になりつつも、酒の味が分かったようで名雪と祐一の評価は“不味い”の一言が一致してしまう。
それでも飲み終わった後までは酒の影響は少なかった様で普段の振る舞いをしていたが、数分後にはゆっくりとダウン。
2人とも特異な行動をする事も無く、泣き上戸とかになる事も無かったので秋名は残念そうな表情になっていた事を記しておく。
「私としては早く一緒に酒が飲みたいんだがな」
「後7年もしたら、一緒に飲めますよ」
秋子の言う事に半分肯定しつつ、半分否定の曖昧な返事をする秋名だが、秋子も意図がそれなりには分かっているようだ。
競馬業界は年々、支出量が増加しており特に中小牧場には大打撃となりえる状況が刻々と近づいている。
勿論、Kanonファームも例外ではなく赤字額を減らす様にする努力を欠かせない事態。
ウインドバレーが成功したので、ひとまず安心は出来る状況にはなったが、これから先も厳しいのは変わらない。
「これからの牧場経営は厳しいだろうし、先が見えないからな」
「そうなるとあまり名雪には継がせたくないですね」
もう一度、名雪の寝顔をソファー越しに眺めてから、秋子は吐息を吐く。
はっ、と秋名は馬鹿にした様に鼻で笑い、辛気臭いのを振り払う為にグラスを掲げると、秋子もそれを真似て掲げる。
そして、静寂の中でグラスを合わせた音だけが響いた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。