駆ける馬　１５６話

　　　　　サウンドワールドが東風ステークスを１番人気で勝利した事で相対的な評価が上がり、それなりの実力を有している事を知ら示した。

　　　　　これでKanonファームにとっては１番人気での初勝利であり、もし敗北してまた１番人気にならない憂い目に遭わなくて済んだ。

　　　　　初めての１番人気での勝利は普段とはまた違う、勝利の味を味わえたと言えるだろうし、Kanonファームにとっては自信も付く出来事。

　　　　　因みにこの勝利でKanonファームは早くも特別戦を４勝した事になり、充実した成績となっているのが伺える。

　　　　　ここで胡坐を掻いてしまうと、勝利した事が無為になってしまうので気を抜くことは出来ない。

　　　　「今年の勝利ペースは非常に良いな」
　　　　「去年は４月までに２勝でしたから、確実に良くなっていますね」

　　　　　３月中旬までに４勝したので、去年と比べるべきも無く随分と躍進を果たした言い切れる事柄。

　　　　　このまま勝ち続けるのは不可能に近いのでどこかで途切れる物だが、逆に勝ち続ける事を願ってしまうのが一般的。

　　　　　努力によって成果は刻々と変化するが、簡単に結果が現れないのも競馬であり年単位の取り組みが必要。

　　　　「来月はクラシックですけど、家からは出せそうも無いですね」
　　　　「ルリイロノホウセキが今から２勝するのは厳しいしな」

　　　　　２勝すれば桜花賞に出走が確実に出来るポーダーラインとなっており、現在は既にステップレースが行われている時期である。

　　　　　なので、今から５００万下を勝利した所で次のレースとの間隔が短くなってしまうのがデメリット。

　　　　　無理をさせないでこの時期の牝馬限定戦では珍しい距離――２０００ｍである忘れな草賞からオークスに出走させたほうが良い。

　　　　　基本的に桜花賞の前日に行われるレースであり、桜花賞馬がオークスでの距離が合うかなどの比べての検討がしやすいレースでもある。

　　　　「私の見立てとしては、ミストケープがオークスに行けると思っているんだが」
　　　　「うーん、現在の成績だとちょっと厳しいですね」

　　　　　２戦０勝３着１回と未だに未勝利であり、中距離戦――２０００ｍでの対応は５着→３着と確実に上がっている。

　　　　　ただ、晩成型の父であるムクターの血を受け継いでいるからか調教タイムがなかなか向上しないジレンマもある。

　　　　　仕上がりが遅いタイプなので、こういう馬は長い目で見ないと結果は出せないのが特徴。

　　　　「今年の牝馬クラシックはメンバーが揃っていますからね」
　　　　「イソノルーブル、ノーザンドライバー、シスタートウショウ、スカーレットブーケ、ミルフォードスルーだったな」

　　　　　指を一本ずつ曲げながら、秋名は馬名を言い上げていく。

　　　　　イソノルーブルは５戦５勝のうち、重賞を２勝しておりＧⅢとＧⅡをそれぞれ１勝ずつ。

　　　　　ノーザンドライバーは６戦４勝と２敗しているが、イソノルーブルと同じく重賞を２勝。

　　　　　ミルフォードスルーは7戦３勝、その成績内で重賞２勝となっている。

　　　　　スカーレットブーケも重賞を２勝しており、父にノーザンテーストを持つ。

　　　　　因みにこの４頭は牡馬混合戦の重賞を勝利しており、非常に濃い内容を見せ付けている。

　　　　　残りのシスタートウショウは３戦３勝とイソノルーブルと同じく無敗馬であり、桜花賞トライアルであるチューリップ賞を勝利している。

　　　　　これだけのメンバーが揃う桜花賞は高レベルに等しいので、５強桜花賞になると言われている。

　　　　　閑話休題。

　　　　「これだけ揃ったメンバーの中で走らせて見たいんですけどね」
　　　　「それは同意する……強い馬と戦わせたいのは馬主としての本望かもしれんな」

　　　　　低レベルのメンバーが揃ったＧⅠなら勝ちやすさは格段に上がるが、例え勝利しても次走で敗れるとフロックだと叫ばれてしまう。

　　　　　それに強い馬と走らせれば、次に繋がる走りを学習してくれる事があるので敗北のデメリットをメリットに変化させる事が可能。

　　　　「秋なら秋華賞が目的？」

　　　　　途中の話までを聞いていたのか、祐一が質問を飛ばすと秋子は肯定しつつ秋名は否定。

　　　　　えっ、とお互いに顔を見合わせて疑問視を浮かべつつ、数秒後に納得した。

　　　　　秋名が否定した理由は秋華賞より２００ｍ距離が長い、エリザベス女王杯を選択したようだ。

　　　　　どちらも３歳牝馬は出走出来るので、あながち間違っているとは言えない。

　　　　　レースレベルは古馬が出走出来るエリザベス女王杯の方が高いので、先ほどの話と辻褄が合う事になる。

　　　　「まぁ、その前に未勝利脱出しないと意味無いけどな」

　　　　　ニヤリと秋名は口端を軽く吊り上げつつ、未勝利戦脱出を強調してこの話を打ち切った。

　　　　　未だに未勝利戦にいるミストケープには無意味の話であり、トントン拍子で勝ち上がらなくては意味が無いのだから。

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　　　　　この話で出た簡潔競馬用語

　　　　　注１：イソノルーブル……この時点で現在で言うラジオたんぱ杯とフィリーズレビュー勝ち。
　　　　　注２：ノーザンドライバー……デイリー杯２歳Ｓとアーリトンカップの勝ち馬。
　　　　　注３：スカーレットブーケ……札幌２歳ＳとクイーンＣの勝ち馬。
　　　　　注４：シスタートウショウ……この時点でチューリップ賞を含めた３戦３勝馬。
　　　　　注５：ミルフォードスルー……函館２歳Ｓとシンザン記念の勝ち馬。