春の訪れを感じられる時期――3月の中旬である現在、少しずつだがほんのりと草木の匂いが日高地区に運ばれて来た。
春が近付いて来たと言う事は恒例の出産シーズン真っ盛りであり、一喜一憂の声が様々な牧場から聞こえてくる。
事例としては、中小牧場では最も悲惨な事例の1つが高額種牡馬の仔が死産してしまった、逆子を自らの手で殺してしまったetcなど。
Kanonファームでも1985年に1頭の仔馬を死産させてしまった事があるので、訪れる悲しみの重さは誰もが知っている。
その後は一度も不幸が訪れていないが、去年の種付けでクイーンキラが不受胎になるなど、生産面で僅かのミスが到来してしまっていた。
ただ、今年もう一度クイーンキラにはフリーリターン制度でアスワンが種付け出来る事にはなっている。
「あまり同じ種牡馬は種付けしたくないんですけどね」
「……そうだろうな」
秋子が今まで配合を考えた際には、2年連続同一種牡馬を種付けした事は一度も無く、多様化のある配合が心掛けられていた。
これは牧場によって方式が変わるので、秋子の様な考えを実行している牧場もあれば、逆に連続して同一種牡馬を種付けする牧場もある。
特に後者は大手牧場がG�鞠呂猟鑠紊鮴源困垢觝櫃妨加�化している事が多く、その為か賢兄愚弟の馬が多く生産されている。
「今年はフラワーロックの配合を考えるだけだな」
今までフラワーロックに種付けした、された主な種牡馬はミスタープロスペクター、フォティテン、キンググローリアスetcなど。
毎年3頭分の配合を考えるだけで数日掛かる事が多数あり、今年は1頭分だけ決定すれば後は受胎を願うのみ。
さて、と秋子は一言発してから自室に向かい、本年度の新種牡馬辞典を含めて数冊を手に取りリビングに戻ってくる。
そして、秋子と秋名による本年度のフラワーロックの配合を決める会議が行われる。
結局、様々な配合案が浮かぶのだが、候補として留まるだけに留まってリストに記載されるだけ確定にはならなかった。
まだまだ検証の余地が多数の時間と共に残されているので、ジックリと早急に決める必要は無い。
本日の競馬はサウンドワールドが東風ステークスに出走が確定している。
中山競馬場で行われ距離も芝1600mとマイル戦なので、近2走の中距離戦だった、天皇賞・秋と中山金杯よりは適正が良いだろう。
重賞であるG�驚羯概�念の出走でも良かったのだが、メンバーが揃う可能性が高いので、こっちに回ったと言う算段がある。
なので、競馬新聞では初めての1番人気に推されており、◎◎○▲○と厚い印で期待されているのが伺える。
因みにKanonファーム生産馬で1番人気になったのは、1988年のアストラルの1000万下以来。
その時は1番人気ながら7着と惨敗しており、これ以来1番人気を味わった事がある馬がいなかった。
ここで勝利すればKanonファーム初の1番人気での勝利となるので、サウンドワールドに重圧を掛ける結果になってしまっている。
「それにしても……随分と久しぶりの1番人気だな」
「約3年もなっていませんから、久しぶりで済む感覚ではないですね」
お互いに苦笑いを洩らしつつ深く嘆息を吐くが、気を取り直してTVに視線を移す。
そして、レースが始まる。
8枠18番なので最後に枠入りを果たし、ゲートが切られる。
今回は前走と違い、スッと先行に取り付き3〜4番手からレースを臨めている。
逃げ馬は1頭もいないので平均的なペースでレースが進む可能性が高く、現時点では無理に先頭を狙う馬もいない。
コースは中山競馬場特有のへの字に近い構造をした外回りを利用しているのだが、出来るだけ内に寄らないとサウンドワールドは弾かれる可能性がある。
200m程走った時点で内から2〜3頭目の部分をキープしたので、その心配は無くなった。
中団から最後方までの差は5馬身辺りと、ひしめき合っている状態なので馬の気分が損ねないようにしているだけで現状は精一杯のようだ。
残り1000m。
8番手付近を走行していた馬が痺れを切らして飛び出してしまい、僅かに展開が早くなる。
徐々に進出するなんてレベルではなく、他馬を飲み込むような勢いで加速しつつ一気に4番手に浮上。
サウンドワールドはその馬に釣られずに、その位置をキープしたままジックリと脚を溜めている。
そして直線に入った所で暴走したまま先頭に立った馬が行き脚を鈍らせて少しずつ垂れてくる。
サウンドワールドの騎手は後方の馬に差されないタイミングと前方に位置する馬を交わせるタイミングで仕掛ける。
残り200m。
急坂を乗り越える為に騎手は手綱を巧みに力強く扱いて、1着を狙う為に馬も手綱を通して動きに応える。
そして、サウンドワールドは先行して2着に食い込んだ馬に1/2馬身に凌いで勝利した。
戻る ← →
この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。