Kanonファームには現在、未入厩の2歳馬を除くと6頭の現役馬がいる。
暫定的なエースはサウンドワールドであり、9戦4勝馬でOPクラスに在籍しているのはアストラル以来。
7月までにOP戦で勝利しないと降級してしまうので、早い内に1勝挙げるのが秋子の本心だった。
サウンドワールド以外の馬はエアフリーダム、エレメントアローとサイレントアサシンがコツコツと稼いでいる。
現3歳馬は、これからの走り次第でガラッと評価が変貌するので勘定されていない。
それにミストケープの前走は騎手が進路選択失敗しての惜敗なので、次走の走り次第で評価は変わるだろう。
今回の走りではノーカウントのままで、次走こそが正念場と言える。
見出せた事は中距離では良い走りをする事であり、運が良ければ重賞でそれなりに活躍しそうな事であった。
もう1頭の3歳馬ルリイロノホウセキの新馬戦は短距離だったが、マイル前後で活躍しそうな下地はある。
ただ、早熟らしく育成牧場に放牧されていた時点でも体重増加が少ないと秋子の元に伝わっていた。
「やはり、期待したいのはウインドバレーのダート戦ですね」
「中央競馬だとダート路線は完全に認知されていないし、空き巣狙いとしては上等だろう」
現状の評価は走るとは言われているが、デビューまで6ヶ月以上あるので早計と言わざるを得ない。
それまでに故障発生したりするのだが、秋子と秋名の期待はそれらを吹き飛ばす程の自信を持っているようだ。
暫定的とは言え、OPクラスに在籍しているサウンドワールドよりも現状評価が高いのは危険性を孕んでいる。
「名雪達の評価はどうなの?」
「期待し過ぎないようにしている」
ソファーに座りながら、秋子と秋名の話を聞いていた名雪は淡々と冷静な口調で言い切る。
手に持っている洋菓子をジッと見ながら、秋子の方を振り向かなかったので機嫌が悪い様に映っている事だろう。
「……ちょっと、浮かれすぎじゃない?」
まだ出走すらしていないのに、とイラついた口調で吐露しつつ、ジロリと目を細めて2人を睨んでいる。
「そう、いきり立たない方が良いぞ」
クックッと笑い声を我慢するように秋名は堪えており、名雪が怒っているのを楽しんでいるようだ。
秋名は両手を伸ばしてから、ギュッと名雪の頬を引っ張る。
「おお……良く伸びるな」
名雪はぶうたれてソッポ向いており、秋名の好きなようにしているが薄っすらとこめかみに青筋が浮かんでいた。
「ウインドバレーは期待しているが、G�気泙嚢圓韻箸�言っている訳じゃない」
「購入費の事を考えると、せめて勝利はして欲しいくらいだけよ」
つまり、現状で1番期待しているのは新馬戦であり、その後の事はまだ不明だと言いたいのだろう。
相変わらず名雪は頬を引っ張られていているが、先程よりは柔和な表情になっているが不機嫌なのは変わりない。
秋名はパッと名雪の頬から両手を放し、ガシガシと名雪の頭を撫でており名雪は赤くなった頬を擦っていた。
「ひっどいなぁー」
「悪い悪い……だから、あまりいきり立たない方が良いぞ」
うー、と名雪は唸っていたが暫らくすると、納得したようでコクリと首を上下に1回だけ振った。
本日の競馬はルリイロノホウセキが出走する。
中山競馬場で行われる特別レース――若竹賞に。
牡馬との混合戦で距離は1800mと、どちらかと言うと距離適正を測るための出走とも言える。
因みに人気は前走の500万下が3着だったので、4番人気とそれなりにオッズが売れているようだ。
人気上位馬は前走――新馬戦を楽勝した馬が人気になっており、ルリイロノホウセキとはオッズの差が6倍近く。
そして、ゲートインが完了してスタート。
ルリイロノホウセキは順調なスタートを切り、6〜8番手辺りに位置して先行勢を窺う。
外の真横には1番人気の馬が位置しており、不利を受けない場所なので残り600m辺りから仕掛ける算段だろう。
やや縦長でレースは進んでいるので、内枠寄りを走っているルリイロノホウセキも不利を被る可能性は低い。
1000mを通過した時点のタイムは59.5。
平均ペースよりやや早いので中団から後方にいる馬にとっては、勝ちやすいペース。
先行勢は少しずつ息を入れて、最後の坂を駆け抜けるため脚を溜めていく。
その為、3コーナーと4コーナーの中間までこれと言った動きは無く、淡々とレースが進んでいく。
残り400m。
追い込み馬が徐々に進出して、最後方と先行勢の差が急激に縮まってくる。
ルリイロノホウセキの騎手は1番人気の馬に馬体を合わせて、同じタイミングで仕掛ける。
お互いに怯む事無く、叩き合っているが内からも2頭伸びている馬がいるのできわどい状況。
そして、根負けしたのはルリイロノホウセキで、内から追い込んできた2頭の内1頭に交わされて3番手になった所がゴールだった。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。