Kanonファームから見られる風景は既に木々が黄色と赤色の葉に染まっており、近くの山も同様に紅葉が目立っている。
繁殖牝馬の放牧地から約1km離れた場所には、現0歳馬が仔別れを済ませた状態で放牧されていた。
まだ、仔別れを済ませて数日しか経過していないので嘶き続けているが、数日もすれば忘れる様に馬同士で遊び始める。
現在、牧場がやや手狭になったのでKanonファームの総面積は少しずつ増加させており、早めに手を打たないと馬の育成に妨げてしまう。
因みに現時点のKanonファームの施設は以下のようになっている。
繁殖牝馬厩舎と放牧地。
0歳馬厩舎と放牧地。
1歳牡馬厩舎と放牧地。
1歳牝馬厩舎と放牧地。
古馬牡馬厩舎と放牧地。
古馬牝馬厩舎と放牧地。
功労馬厩舎と放牧地。
1週1000mの馬場。
これだけの厩舎と放牧地があるのはキチンと理由があり、それは次の通り。
牡馬と牝馬を同じ場所に入れてしまうと、牝馬が見知らぬ内に受胎してしまう恐れがあるからだ。
それが現実に起こると、産まれた仔馬は父が不明なので競走馬になれないで処分されてしまう。
だから、日本を含めて何処の競馬も国際機関が定めた血統書をキチンと提出するのが義務付けられている。
閑話休題。
これだけの施設があるのは、短期間だが他所の馬を預かる事があるかもしれないのを先見されて秋子と秋名の父が資金を抽出して作り上げた物。
ただ、大手牧場と比べるとまだまだ牧場総面積も施設数も負けており、1つの放牧地もそれほど大きい訳でもない。
それでも周辺の中小牧場よりある程度だが、それなりに広い放牧地でもある。
放牧地はそれほどの広さが無く、オーバーペースにならない様になっているので時折、短期放牧の為に他所の馬が連れられてくる。
2〜3週間程度の利用が多いが、馬の体調を整えストレスを取っ払うには丁度良い期間。
そして、放牧期間が終われば戦場と言うターフで走るためにそれぞれの厩舎に戻っていく。
「では、確かにお返ししました」
秋子は預かっていた馬を返却した事を示す書類にサインを書き込んで、美浦トレセンまで馬を連れて行く久瀬調教師に手渡す。
「では、次回もお願いするかも知れませんが、その時は宜しくお願いします」
そう言って久瀬調教師は馬運車に乗り込んで、秋子はその場で暫らく見送った。
馬運車が見えなくなると秋子は軽く背伸びをしつつ、肩をグルグルと回す。
「他人の馬を預かるのは大変です」
秋子は一人ごちてから、もう一度背伸びを行ってから厩舎に向かって行った。
今週は天皇賞・秋が行われる週なので、それに合わせて競馬新聞、TVも良く見かける様になっている。
ただ、まだ出走抽選は終わっていないのでサウンドワールドが出走確定したのかは不明。
可能か不可能でも電話が掛かってくる筈なので、待つ以外の手段は無く天命に身を委ねて結果を待ち望む秋子。
そして、数分か数時間か時間の感覚がぼやけかけた頃に1本の電話が舞い込んで来た。
秋子は軽く深呼吸をしつつ、2コール目になった瞬間に受話器を取る。
「はい、Kanonファームですが……」
相手はサウンドワールドを預けている調教師であり、抽選の結果を伝えるために電話を掛けてきたのは間違いない。
「結果はどうでしたか?」
逸る気持ちを秋子は抑えつつ、冷静な口調で調教師に質問を行う。
調教師は少し間を置いてから、秋子を焦らす様子を楽しんでいるのか、なかなか口にしない。
「もう……焦らさないでくださいよ」
秋子は起こった素振りで言うが、調教師は笑って誤魔化したようで、秋子も釣られて笑ってしまう。
「で……出走はどうなんでしょうか?」
ソファーに座っている秋名と名雪、祐一は揃って聞き耳を立てており、待ち遠しそうな表情になっている。
そして、秋子は喜色満面の表情の3人に向けると、秋名と名雪はハイタッチを無意識で繰り出し、祐一は両手でガッツポーズを表していた。
「では、当日を楽しみにしています」
そう言って秋子は受話器を戻して、秋名に背中から思いっきり抱き着く。
「姉さんのイカサマのお陰ですね」
「……そりゃあどうも」
秋名は憮然とした表情になるが、すぐに柔和した表情になり秋子の頭をポンポンと叩いている。
これで出走は確定したので、後はどれだけ上位に食い込めるかが問題だが8大競走に出走できるだけでも嬉しい事。
特に中小牧場にとっては8大競走に出走させる事が、厳しい事なのだから。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。