ひとまず、サウンドワールドの出走登録は天皇賞・秋で確定したのだが現在の本賞金では確実に出走は不可能。
今からステップレースに出走すると体調面に問題が出るかもしれないので、抽選で狙う。
因みにステップレースは3歳重賞と古馬重賞があるのだが、神戸新聞杯とセントライト記念はローテーションが厳しい。
毎日王冠と京都大賞典は古馬が出走するので、レース後の消費も大きくなるので回避した方が良い。
なので、抽選によっての出走になるのだが確率としては1/5ぐらいと低く見た方が、秋子にとってダメージは少なく済む。
出走が不可能の場合には菊花賞にも登録は行っているので、こちらの方が抽選は無く出走が出来る可能性が高い。
「私としては天皇賞・秋に出走が出来ると良いんだがな」
「……姉さんに騙されたわたしとしては、ちょっと複雑ですが」
少しだけ口を尖らせつつ、プイッとそっぽ向く秋子だが、本心から憤慨している訳ではなく、むしろ感謝の気持ちの方が強いだろう。
イカサマ紛いのコイントスとは言え道標になったのは確かであり、ある意味優柔不断を脱した出来事と言える。
ポン、と秋子の肩に手を置いた秋名は口端を吊り上げつつ、気にするなと耳元で呟いた。
本日はルリイロノホウセキがデビュー戦を迎える日となっているので、レースが終わるまでは仕事は一時中断。
デビュー戦の地として選ばれたのは札幌競馬場の最終週で行われる芝1200m。
既に芝コースの内柵沿いは傷んだ芝が剥げかけているが、全体的には概ね良好と言える。
ルリイロノホウセキは中央寄りの枠――6枠7番からの出走なので、痛んだ芝の上を直線まで走る事は無いだろう。
天候は曇り時々雨と天気予報で言われていたが、現在の札幌上空は薄い灰色の雲が覆い被さっている状況。
だが、現時点では雨が降っても小降り状態だと思われるので、レース中には影響が無いだろう。
大降りになったら、海外の競馬では日常茶飯事で行われているスクラッチ――出走取り消しと言う手段が日本には無い。
日本が導入されていない理由は馬券で成り立っているのが事実なので、レース直前に取り消しが起こると一部返還をしなくてはならない。
故障による出走取り消しはやむ得ないが、この方法を取り入れると馬券売り上げなどに影響が出る恐れがある。
そして、最終的には競馬ファンが減っていくと言うシナリオになってしまうかもしれない。
そのため、レース前に雨が降ると大荒れになってしまう事が度々ある。
閑話休題。
ルリイロノホウセキの馬体重は420kgと出走馬の中で最も軽く、体格もややヒョロヒョロした感じが残っている。
まるでキュウリに割り箸を4本刺して作られたお盆時使用される精霊馬と比喩しても良いくらい。
「筋肉が付き難い体質ってあるのか?」
「晩成ならありえるかも知れませんが……」
幾らなんでも馬体重が軽過ぎだろう、と秋名はぼやくが事態が変わる訳ではない。
なので、このまま見守り続けるしかなかった。
さて、現在の人気は馬体重が影響してか、12頭中5番人気となっているが、調教タイムは優秀であったので中途半端になっている感じ。
ただ、競馬新聞の印は△、△、―、▲、注、と悪くない評価を貰っているが、走るかどうかは不明。
人によって印象の捉え方がまったく違うので、申し程度の参考と言っても良い。
「馬券は購入したんですか?」
「いや……購入すると勝てない気がするからパスしている」
最近の成績は良くなくて、と秋名はジンクスに囚われてしまった事を教えるが、その分出走レースが勝っている事は確からしい。
そんな話をしているうちにレースが始まる。
ルリイロノホウセキは一度だけゲート入りを拒むが、その後はスムーズにゲートイン。
スタートのタイミングはワンテンポ遅れたが、中団に位置してレース展開を窺う。
新馬戦なので、それほどペースは早くならず淡々とした展開で動いているが1頭の馬が道中入れ込んでしまった。
ここで他馬が釣られるようにレースが動き、1ハロン――200mのタイムが早くなってしまう。
ルリイロノホウセキの騎手はこれ以上他馬に釣られないように、手綱を引っ張って喧嘩状態。
そして、最終コーナーを過ぎた時点で手綱を緩め、6番手から徐々に進出。
入れ込んだ馬は息遣いが悪くなったのか、3番手からズルズルと下がっていく。
先行勢も入れ込んだ馬に影響され、ペース分配が狂ってしまい行き脚がもたついている。
漁夫の利を得るようには外から差し切ってしまうが、後方に待機していた馬も上がってくる。
が、ルリイロノホウセキの方が僅かに仕掛けは早かったので直線が短い札幌競馬場ではとても届かなく、1馬身凌いで勝利。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。