4月の中旬。

     関東地区では桜が咲き乱れ、ピンク色の花びらがハラハラと少しずつ散っている。

     その桜の花が舞う、それぞれの競馬場でKanonファームの各馬が出走した。

     結果は4回出走して、1・0・0・3と1着1回に着外が3回と、それなりのレースで今年2勝目の勝利を掴んだ。

     勿論、この勝利は格のあるレースではなく1000万下とOP戦から2つ格が低い。

     その1000万下を勝利した馬の名は――サイクロンウェーヴ。

     即ち、セン馬になってから心機一転からの状態になって2戦目で久しぶりの勝利を飾った。

     1年と6ヶ月、これだけの年月が進行しておりサイクロンウェーヴが勝てなかった日々を表している。

     この勝利を飾った事でサイクロンウェーヴは11戦3勝と、それなりの成績を収めた事になった。

     未勝利で終わる馬の数が多い事を考えると、3勝は中小牧場には十分な成績と言える。

     重賞制覇をしたら最高だが簡単に勝利出来ないので、一定の成績で諸経費を越えてくれれば、中小牧場では名馬と言える。

 

    「ん、そろそろ皐月賞の時間ですか」

 

     この場には秋子1人しかおらず、数日前に行ったジャンケン勝負で敗れたのがこの結果であった。

     いつもは家族がいる事で賑やかなKanonファームも今日だけは馬の嘶きが寂しさを紛らわせる物だった。

     Kanonファームの牧場面積はそれ程、広くないのだが1人で居るには十分な広さを感じてしまうほど広大とも言える。

 

    「うちの牧場はこれだけの広さがあったんですね」

 

     春の暖かい風で乱れる髪を右手で押さえつけながら、秋子はしんみりと呟いてから家に戻って行く。

 

 

     少し時間を遡り、場所を変える。

     皐月賞――クラシック1冠目に冠するレースであり、このレースには1つの格言が存在する。

     皐月賞は速い馬が勝つ、と言う格言が。

     行われる時期は4月とクラシックでは桜花賞の次に早く、サラブレットの成長は基本的に4歳の秋頃が一番成長する。

     なので、この時期――3歳4月の時点では最も早い馬が勝つと言われている。

     成長の早い馬、走る速度が速い馬を一包めで、皐月賞は速い馬が勝つと言われるのだろう。

     閑話休題。

     ここ、多数の観客が来場している中山競馬場に来ているのは秋名、名雪と祐一の3人。

     カジュアル系の服では無くキチンとした服装で無いと馬主席には入場出来ないので3人とも身なりの整った服装を包んでいる。

     秋名はドレス、ワンピース類を秋子から手渡されたのだが本人はスカート類が苦手なので、拒んで男性用のスーツに着替えている。

     肩まである乱雑に切られている髪は一纏めにヘアピンで縫い上げられており、名雪は感嘆を上げて秋名に纏わり付いていた。

     その名雪は、白い肌が映り栄えするダークブルーのワンピースと蹄鉄を模したネックレスを身に着けている。

 

    「うー、何かこの格好は疲れるよ」

 

     ワンピースの裾を軽く摘みながら、身嗜みを確認する名雪。

     ポン、と名雪の頭に手を乗せて、似合っているから良いじゃないか、とのたまう秋名。

     そうかな、と名雪は唇に人差し指を当てながら首を傾げて、祐一が居る方を向いて疑問を祐一に聞く。

 

    「お、おう……似合っていると思うぞ」

 

     しどろもどろになりつつも、祐一は律儀に名雪からの質問を答え、名雪本人 は一言だけだが、はにかだ表情でお礼を言う。

     暫らくは名雪と祐一は馬主席の大窓に張り付くようにして競馬を眺めており、感嘆を上げていた。

 

    「うーん、そろそろパドックだな」

 

     秋名は軽く背伸びをしてから、名雪と祐一に声を掛けてパドックに行くか? と質問をする。

     2人の答えは、当たり前と言うべきか凄い勢いで首を上下に振り肯定している。

 

 

     パドックは長円形をしており、中心には芝が張られてその外側に馬が歩くコースが設置。

     そのコースから数m離れた場所には多数の観客がカメラを構えていたり、新聞を広げて予想を講じている。

     数千人近くがパドック周辺で馬の様子を凝視しており、二千付近の目で馬の動きが一心に注目される。

     そして、パドック入場で観客の視線がより強い物になり、アナウンサーが馬名などを読み上げる作業が始まった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。