Kanonファームにある厩舎内の馬房で１頭の仔馬が誕生した。
クイーンキラの仔馬であり、父と母と同じ毛色――鹿毛が馬房内にある窓に降り注ぐ陽光で馬体が輝いている。
神懸かりの様な出来事だが、このような出来事で強い馬が産まれるなら誰だって神頼みを利用するだろう。
馬の出産は夜明け辺りが多いのも関係しているので、運が良ければ陽光と共に産まれる事もある。
まぁ、出産時にインパクトが残ったのは確かだが、実力がどうなるかは今後次第なのは確実。
さて、クイーンキラの初仔だが、“！”を逆向きにしたような流星がチャームポイントとなっていた。
それ以外は特に目立つ部分は無く、外見は実に平凡と言った所だがそれだけ馬体は安定した形と言う訳だ。
走るかどうかは措いておいて、クイーンキラは初産にしてはフラワーロックと違い仔馬にキチンと初乳を与えている。
ひとまずは安心できる風景であり、秋子と秋名は頬を緩ませて見守るように見続けていた。
軽く欠伸を洩らした後に壁に掛かっている時計を見ると、４時５２分と数時間もしたら牧場作業を行う時間だった。
「後は、ファントムとフラワーロックの仔馬か」
「ええ……ちょっと出産時期がずれ込みそうですね」
兆候は見られず暫らくは産まれる日が後になりそうだと、獣医に言われているので待つしか無い。
ちゃんと丈夫な仔馬が産まれる事を期待して、秋子と秋名はちょっとだけの仮眠を取るために家に戻って行った。
この後は馬に飼い葉を与える仕事などがまだ残っているのだから。
さて、今週のレースにはアストラルの引退レースが行われる。
久しぶりのレースであり、新聞では▲が１つだけ掲載されているので７番人気辺りだろう。
出走馬の数はアストラルを含めて、９頭立てなのでオッズは１０３.４倍と万馬券を演出出来る人気。
引退レースは中山芝１８００ｍで行われるＧ�供宗獣羯概�念。
枠は７枠７番と、やや外枠であるが９頭立てなのでアストラルより外枠は２頭だけ。
出走馬の中には古豪の歴戦馬ホクトヘリオスとランニングフリー。
特にホクトヘリオスは前年のダービー卿チャレンジトロフィーで対戦している因縁がある。
他の出走馬は目黒記念の勝ち馬キリパワーと牝馬重賞の常連メジロモントレーがいる。
これだけのメンバーが揃っているので、勝つのは困難と言える。
アストラルは重賞勝ちもＯＰ戦勝ちも無く、出られただけでも幸運と言える
だろう。
引退レースなので、秋子と秋名はささやかな額だが単勝馬券を購入しており応援する予定。
ただ、馬券購入した時に限って馬券成績は良くないので不幸なジンクスをアストラルは背負ってしまった。
２人はその事を気付いているのかもしれないが、応援の方が大事だと思ったので購入した経緯。
このジンクスを打ち破る事も託してしまったので、ますます勝率がガクリと下がってしまった。
閑話休題。
現在の馬場状態は良馬場だが内枠側の芝は剥げており箇所が多くあり、内枠の馬にはやや厳しい。
アストラルは外枠の分この点だけは有利と言えるが、距離の恩恵だけは他馬に負けている。
「頑張って欲しいですね」
「……勝ったら引退取り消しは無いのか？」
秋名は疑問を洩らすが、その事は無いのか、秋子は左右に頭を振って否定した。
そうか、とそれだけを言う間にスタートは切られていた。
いつもの指定席――最後方からレースを進めていくが、９頭立てなのでハイペースにならず団子状態。
アストラルの前にはホクトへリオスが控えており、先頭は押し出されたようにランニングフリーが。
仕掛け所を間違えると、勝てる確率は低くズルズルと突き放される可能性が高い。
３コーナーを過ぎ、最終コーナーで各馬が一斉にホクトヘリオスの動きに釣られてレースが動く。
アストラルは外に持ち出して、ホクトヘリオスに突き放されないように食い付いて行く。
残り２００ｍ。
中山競馬場の名物である坂を駆け上がっており、ランニングフリーはステイヤーらしく先頭で粘っている。
だが、ホクトヘリオスの切れ味の方が勝っており、残り１００ｍの時点で先頭に立つ。
アストラルは追い詰めようとしたが、ランニングフリーも交わせずに３着となり、１２戦５勝で引退となった。
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この話で出た簡潔競馬用語
注１：ランニングフリー……天皇賞・春の２着があったり、重賞を３勝している。
注２：キリパワー……宝塚記念３番人気になった事があり、目黒記念勝利馬。
注３：メジロモントレー……Ｇ�犠，舛鰐気い�、オークスとエリザベス女王杯では２番人気なるくらいだった。