秋子と秋名がサウンドワールドに重賞制覇の願いを託してから1週間。
サウンドワールドが中山競馬場に出陣する事が決まった。
寒竹賞――芝2000mと前走の未勝利戦から200mの距離延長となっており、どちらかと言うと歓迎出来る。
毛色は父の影響が濃いが、距離適正は前走を見る限り長い方が向いているような走り。
ここを勝てばOPクラスに昇格出来て、ジェットボーイとアストラル以来のOP馬が誕生する。
アストラルは売却した馬だが、生産はKanonファームなのはどんな事が合っても変わりない。
だが、アストラルは次走での引退が馬主の意向で急遽決定してしまい、Kanonファーム産馬にはOP馬がいなくなってしまう。
そのため、1頭でも多く勝つ馬が出てくる事を祈らないと、前年の勝利数――9勝を大きく下回って可能性もある。
出来れば勝利数はキープしておきたいのは、どこの牧場も一緒である。
だから、秋子としては1頭でも良いからOP馬を輩出しておいて、少しでも賞金をプラスにしたいのが本音だろう。
アストラルが引退したらKanonファーム生産馬で一番の稼ぎ頭がサイクロンウェーブだけになってしまう。
現在はセン馬なので、ちょくちょく入着して賞金を稼いでくれる事は期待しているが、世代交代にはならない。
現在は4歳となっており、既に古馬と言っても良いのでいつかは引退が近づいてくるのは確か。
「急に引退が決まるとは誤算ですね」
「……そうだな」
もしかしたら種牡馬入りするかもな、と秋名は客観的な希望を述べるがありえない話でもない。
まぁ、その可能性は重賞未勝利馬なので思いっきり低いとは確実に言える事だが。
「そのために、サウンドワールドはOP馬になってもらわないと困ります」
「勝率はどれくらいと見る?」
暫し、秋子は顎に人差し指を添えて思考をしてから、ピッと右手の指を4本秋名に見せ付ける。
つまり、4割程度の勝率と秋子は予想したようだ。
逆に秋名は5割程度、と秋子とあまり差の無い予想を展開。
予想の事を口に出し終わると同時に、丁度良いタイミングで寒竹賞のパドックがTV画面に映し出される。
中山競馬場にはチラチラと微雪ながら降り続けており、コースは雪に染まる事は無いが水分を含んで芝の水捌けが悪い状態。
なので芝の表面には薄っすらとだが、水分が付着していて馬場状態は稍重と電光掲示板に表示されている。
サウンドワールドは3枠4番で、現在は7.9倍のオッズで5番人気となっている。
前走の勝ちがそこそこ評価されていると言っても良いだろう。
上位人気馬はどれも前走が500万下のレースで2着になった馬が占めているので初クラスに挑戦では少し身が重いかもしれない。
その分、気負っているようには見えるかも知れないが、入れ込まなければ良い勝負になりえる。
「ん、良さそうですね」
現在は騎手が騎乗してのパドック周回中だが、首を深く落としてグッグッと闊歩していた。
そして、パドックが終わると地下道から馬場へと向かって行った。
地下道から出てくると、何事も無かったようで走りたくて堪らなかったのかリードが外されるとすぐさまに走り出す。
「後はレースのみですね」
「ああ……結構行けそうだな」
数分後、ゲート入りが行われるが、サウンドワールドはスムーズに入っていく。
最後に14番のゼッケンが入り、レースのスタートが切られる。
前走と同じように4〜6番手辺りをキープすると思われたが、今回は8番手辺りに位置している。
クラシックへ向けての脚質のテストであり、この辺りで覚えさせないとここを勝てたとしてもOP戦で脚質を試すのは厳しい。
手強い相手が多いクラシックへ向けてなら、早い内から試すのが正しくこのレースでする方が良い。
残り1000m。
サウンドワールドは痺れを切らす事無く、騎手の指示に従って8番手をキープしている。
1番人気の馬はサウンドワールドの僅か前方に位置しており、5〜6番手と言った所。
3コーナーを過ぎ、4コーナーを回る各馬達。
サウンドワールドも騎手の仕掛けに反応して、一気に進出をして6番手に浮上する。
先頭集団はワンテンポ遅らせており、中山競馬場名物の坂で攻勢を仕掛けるつもりだろう。
徐々に外に進出したサウンドワールドはグンと、騎手の鞭に応えて伸びるが簡単に先頭に立てない。
残り100m。
坂の道中なので、最も厳しい戦いが強いられており2頭の馬が叩き合っている。
サウンドワールドは手応えは良さそうだが、相手の方もなかなか良さそうな手応えのまま。
そしてゴールイン。
電光掲示板には着差の部分は“写”と表示され、3着馬との差は1.1/2馬身となった。
そして、数分後の電光掲示板には競馬では非常に珍しい、同着を示す“同”のマークが表示された。
戻る ← →
この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。