驚きを隠せない状態がKanonファームに舞い降りてしまった。

     サイレントアサシンが15番人気で新馬戦を快勝、と新馬戦を勝利した事はKanonファームになってから初めての事。

     殆どの馬が2戦目か、3戦目の未勝利戦で初勝利を挙げるのに対してサイレントアサシンは珍しく初出走での勝利。

     新馬戦の勝ちだと競馬雑誌に取り上げられる事があるが、未勝利だと小さくコメントが載るくらいの差がある。

     なので、新馬勝ちをしてくれれば牧場の名が少しずつ知られてくれるようになる。

     まぁ、G�犠〕�の価値に比べると微々たるものでしかならないが。

     同日に精進湖特別に出走したサイクロンウェーヴは18頭中14着となり、更に入れ込みのオマケ付き。

     これで3戦連続の入れ込みで、手の施し様が無い状態と言ってしまっても過言では無い。

     Kanonファームでは今後のローテションなどを話し合っているのだが、その中で真っ先に出た案がセン馬にするという事。

 

    「年齢からすると、まだ走りそうな余地はありますし……」
    「手っ取り早い方法はこれが一番か?」

 

     メモ用紙には大きく赤ペンでセン馬の部分にマルが書かれており、決定は近いのだろう。

     この場には名雪と祐一も居るが、祐一だけは何故か口を挟まずに縮こまっていた。

     セン馬の話を聞いてからか唯一、男の象徴が分かるのは祐一だけなのでそのせいで縮こまっているのかもしれない。

     椅子に座ったままで、両手は股間を隠すように覆っていた。

 

    「……祐一、萎縮してない?」
    「……うっ」

 

     ポン、と名雪は祐一の肩を優しく叩いてから、口端を釣り上げてニヤリという擬音が浮かびそうな表情になっている。

     ただ、その表情は俯き加減になっているので祐一からは見えないだろうが、秋子と秋名にはキッチリと見えていたようだ。

     その為、秋子と秋名はお互いに顔を見合わせて苦笑いを洩らしてしまった。

 

 

     サッ、と4つの手の内3つが挙手されて、手を上げた人物は秋子、秋名と名雪の3人。

     これでサイクロンウェーヴがセン馬となるのは決定してしまった。

     多数決による決定なので、反対者は祐一が1人だけなので最初から敗北は決まっていたような物。

 

    「くっ……これが民主主義による弊害か」

 

     ガックリと祐一は項垂れているが、決定した物は覆せないので仕方なく従うポーズは取るようだ。

     諦めたら、と言いたげに名雪は先程と同じように祐一の肩を叩いている。

     セン馬にする事が決定したので秋子は調教師に電話を掛けており、数分もしたら終わるだろう。

 

    「もう、覆せないか」
    「うん、無理だろうね」

 

     はぁ、と祐一は深く溜息を吐いた。

     電話が終わると抜刀手術の後に1ヶ月くらいの放牧が必要、と秋子は要点を伝えていく。

     放牧地は自分の牧場――Kanonファームと後から付け加えて説明が終わる。

 

    「何時ごろ、こっちに来るんだ?」
    「来週辺りには来る予定ですね」

 

     他に質問は無い? と秋子は逆に質問をするが3人は左右に首を振って何も無い事を示す。

     この話はこれで終わりなので、それぞれ自分の役目を全うするために放牧地と厩舎にそれぞれ向かう。

 

 

     仔馬達は既に子別れを済ませており、放牧地を集団で駆け回って、時折喧嘩をしている。

     喧嘩と言っても、威嚇して自分の方が強い事を見せるための行動であり、こうしてリーダーが決まる。

     Kanonファームには当歳馬は3頭だけだが、馬は集団生活が当たり前なので数が少なくてもリーダー決めは行われるようだ。

     結果はファントム産駒が座を奪い取ったようで、名雪と祐一が手がけたフラワーロックの仔馬はなれなかった。

 

    「残念だなぁ」
    「まぁ、レースで成果が出れば良い」

 

     そうだね、と名雪は秋名の言い分を肯定して頷きながら、柵越しに様子を見ている。

     躍動感のある走りをしており、如何に綺麗な走りをしているかが窺える動きだった。

     2人は実に楽しみを見つけた表情を浮かばせて、暫らく様子を見守り続けた。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。