夏競馬の間にKanonファームの生産馬は、アストラルとエアフリーダムそれにエレメントアローが勝利した。

     アストラルは一定の本賞金に達していなかったのでOPから1600万下に降級していたのだから、この勝利は珍しくない。

     とは言え、着差は思ったより拡がらずにギリギリで鼻差凌いで勝利したのだが首の上げ下げでの勝利だったので運が良かった。

     勝利したレースは天の川ステークス、新潟競馬場芝2000m。

     エアフリーダムとエレメントアローはそれぞれ、前走に未勝利戦を勝利したばかりなので500万下に挑戦。

     エアフリーダムは小倉芝1700m戦を、1・1/2馬身と楽に勝利していた。

     エレメントアローの方は新潟芝1800m戦を運良く、勝利を手に入れたのだが、あまり喜べない勝ち方。

     それは1着馬が斜行による降着となったのだが、運も実力の内なのでこの勝利は実力で取った証。

     ただ、秋子だけは手放しで喜んでいない。

     勝ったのは勝ったのだが、これでは実力で勝利したのかが不明なのでその点が困惑している部分である。

     なので、次走がエレメントアローの正念場となるのは確か。

     因みにこの3頭が勝利してくれたお陰で、Kanonファーム初の2週連続勝利をもたらしてくれた。

     このレースの後は3頭とも放牧に出されており、帰厩時期は放牧地での体調によるが秋になる頃だろう。

     因みにKanonファームには大掛かりの調教施設が無いので、こちらに放牧されるのはオーバーペースの調整をしない馬が来る。

     このように、コツコツと勝利数が増えて行ってくれたら、いつか重賞は勝利してくれると秋子は今でも信じている。

 

    「今年もダルマの片目は塗れないのは困ります」
    「やはり、運が良くないと駄目っぽいな」

 

     2週連続勝利で使い果たしたか? と言いたげな表情で秋名は煙草を咥えだす。

     既に今年は7勝もしており、去年の6勝を半年近くで越えたのは目覚しい活躍と言える。

     ただその分、OP戦は1つしか勝っておらず賞金はあまり増えておらず毎月小額の赤字になっている。

 

    「1回でも早く、重賞を勝ちたいですね」
    「フラワーロックの仔が取りそうな気もするけどな」

 

     うちで最も血統が良いし、と長所を上げていく秋名だがそこまで先までかなり長い時間を要する。

     万馬券になるくらいの人気でも良いから、と秋子はポツリと一言ぼやいた。

 

 

     名雪が考えた馬名は無事に申請が通り、晴れて仔馬はサイレントアサシンと言う立派な馬名が付いた。

     調教師によると、調教はまずまずの動きを見せており、徐々にペースアップしていく予定らしい。

     上手く仕上がれば10月の上旬にはデビュー出来る見込みのようだ。

     サウンドワールドは秋の未勝利戦で、距離延長で初勝利を狙う事になったので現在は厩舎に置いている。

     残暑が厳しい時期に帰厩させるのは一番、馬に辛い環境になってしまうので早めに戻すのが現在のやり方になっている。

 

    「今年の夏は、厳しいですからね」
    「もう少し、気温が低いと放牧時間が変わるんだがな」

 

     お互いに溜息を吐いて、テーブルの上に置かれている氷が融けかけたアイスコーヒーを口に付けた。

     現在、Kanonファームでは昼の放牧時間を減らして、夕方から夜間までの時間を増やしている。

     常時、夜間放牧が可能になっているが基本的に日光の多い時間に放牧させるのが望ましい。

     やれやれ、と秋名は肩を竦めて自然には勝てないな、と言い切った。

 

 

     その頃、牧場の敷地内では名雪が馬を曳いており、その上には香里が騎乗していた。

     その柵の外では香里の妹――栞が感嘆な声を上げて、姉の動きをジッと見ている。

 

    「どう?」
    「視点が凄く高くなるわね」

 

     ゆっくりとリードで名雪が曳いているにも関わらず、香里の声は上擦って興奮しているのが分かる。

     そして、コースを1週歩き終わると名雪に支えられながら香里は馬の背から降りる。

 

    「お姉ちゃん、どうだった?」
    「視線が高くなったし、これで走れたら風が気持ち良さそうよ」

 

     興奮した口運びではないが、頬は赤く蒸気しており如何に気持ち良かったかが伺える表情。

 

    「うー、私も乗りたいです」
    「栞ちゃんも乗ってみる?」

 

     すぐさま、栞は首を上下に振り乗ろうとするが、ちょっと待っててねと栞の頭を撫でて、何かを取りに行く。

     暫らくして、戻ってきた名雪の手には鐙が栞の足にも届きそうな鞍を持って来る。

     腹帯と鞍をセットして、栞が乗りやすいようにする。

 

    「はい、これで乗れるよ」

 

     その後、栞は実に喜色満面の表情で楽しんでいた事を記しておく。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。