久しぶりにサイクロンウェーヴが出走する。

     前走から実に約5ヶ月振りの実戦となるのだが、不安は入れ込みの点だけが上げられる。

     重度の跛行があったので、完治するまでプール調教――心肺と足元の負担には向いている調教で身体は絞っていた。

     だが、泳ぐ事が速くなっても意味が無くレースで速くならなくては意味が無いと言える。

     プール調教は上記の2つには向いているのだが、調教コースを走らないので馬がペースなどを忘れてしまう恐れも。

     3ヶ月程で跛行は完治したのだが、調教コースになるとなかなかタイムが仕上がらなかったのでここまで長引いてしまった。

     そして、出走するレースは夏の新潟と小倉を避けて、函館で滞在競馬と決定している。

     HTB杯芝2000m――ハンデ戦なので7戦2勝で、前走が8着のサイクロンウェーヴは軽くなる目論見もある。

     そして、その通りに54kgとハンデの中では低量となっており、ハンデを生かした走りが期待出来るかもしれない。

 

    「人気は14頭中8番人気ですか……」

 

     秋子はちょっとばかり、眉間に皺を寄せて電光掲示板を見上げる。

     20.5倍と、上位人気が混戦しているのでこの評価に落ち込んでしまったとも言える。

     因みに、小倉ではサウンドワールドが2歳新馬戦に出走したのだが、ちょっと出走時期が早かったのか4着と惜敗。

     距離は1200mとメンデス産駒には少し短かったのかもしれないので4着なら十分と言える。

     それに母系は日本馬の重厚な血統なので、もう少し距離が長いの方が向いているのは明白。

     ターフビジョンでレース結果を見た限り、道中は他馬に追い付けないで押し通しだった。

     なので、秋子はスタミナがありそうですね、と函館競馬場の馬主席でポツリと呟いていた。

     本日は日曜日であり重賞が行われる日ではないのだが、晴天なので客の入りは上々と言った所。

     馬券の売り上げが馬主へ払われる賞金に左右されるので秋子もそうだが、基本的にどの馬主も多くの売り上げを望んでいる。

     売り上げの75%が払い戻し、残りの25%の内15%が賞金などに回されて10%は国庫に納められる。

     これが現在の競馬仕組みなので、売り上げが多くないと馬主に還元出来ず馬主離れが起きるかもしれない。

     なので、競馬協会は如何に馬主と客が離れない様になるかを躍起して思案を考えている。

     閑話休題。

     HTB杯の前レースが終わり、ようやくサイクロンウェーヴが出走する。

     直前オッズは全然変わり無く、21.5倍と僅かにだが上がったくらいで影響はそれ程無い。

     人気は変わっていないので、レース直前にオッズ変動なんか日常茶飯事に起こっている。

     パドックを見た限りでは、やはりと言うか入れ込んでいるのが一番印象に残ってしまった。

     激しく入れ込んでおり、パドックで発汗を流していたのは気温の高さだけでは無いだろう。

 

    「……大丈夫でしょうか」

 

     独り言をぼやくが、この場所には知り合いの馬主は居ない事を思い出して慌てて口に手を当てて閉じる。

     はふぅ、と恥ずかしそうに嘆息を吐いてから秋子はこれから行われるレースに集中するために双眼鏡で馬の様子を覗く。

     そして、ゲートインが行われるのだがサイクロンウェーヴは入れ込んでいるのでなかなかスムーズにゲート入りが出来ない。

     数分後。

     ようやくサイクロンウェーヴがゲート入りを済ませ、他馬もゲートに入ってスタートが切られる。

     やはりと言うべきが、ワンテンポ出遅れた挙句に激しく掛かって騎手の意思を逆らっているため頭が上がっている。

     出走頭数が少ないため前に壁を作る事が出来ず、そのまま先頭に踊り立つ勢い。

 

 

     そして結果は14頭中12着。

     大惨敗であり、まったく後に繋がりそうな走りとは言えないだろう。

     入れ込んだ挙句に大暴走しての惨敗なので殆ど、見るべき所が無いと言える。

     もしも、直線半ばまで脚を残していたら、評価は又違った物になっただろうが、そういうシーンはなかなか見れない。

 

    「もしかして、馬券を購入したりレースを見に行くと勝率が悪いかも知れませんね」

 

     自分で言った事に溜息を吐きながら、秋子は競馬場を後にした。

 

 

     戻る      

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。