サンサンと陽光が馬産地を照らしており、真夏が到来したと言える気温――30℃と温度計は示している。

     本州並みの気温なので多数の馬が暑さに参っており、発汗がレース終了後と同じ位の量が流れていた。

     特に毛色が黒に近い馬は最も熱の吸収量が多いので、この時期は厳しいと言えるのだが競馬統計によるとそんな事は無いようだ。

     夏競馬では牝馬と芦毛を買えと言われるが、実際には芦毛の出走比率が少ないので頭数が多いので必然的に鹿毛の勝率の方が良い。

     そんな訳で実際にどれだけ毛色別で暑さに弱いかは、依然として当てにならないのが実態だろう。

     まぁ、馬にも夏負けはあるので長引くと調教がまともに出来ない事になり、レース出走がままならない事になる。

     有名な3冠馬――シンザンも当時、栗東が無い時代京都にある厩舎で菊花賞に向けて厩舎で過ごしていた。

     この頃は北海道で放牧するには時間が掛かるし、戻って来るまでも時間が掛かるのでこの手段が常識に近かった。

     この時は稀となる猛暑が到来して、重度の夏負けになってしまい厩舎に氷柱を置くなどの措置もあったが効果はいま1つだったと言う。

     そのため、夏明けの2戦は共に2着に敗れている。

     なので、馬は基本的に暑さに弱いと言えるだろう。

     閑話休題。

     これだけ暑いと放牧されている馬にも影響あるが、厩舎から出さない訳にもいかない。

 

    「暑そうだねー」

 

     黒鹿毛であるフラワーロックの仔馬を撫でながら名雪は言うが本馬は暑そうにだれており、走り回る微塵ささえ見えない。

     放牧地にはキチンとタップリと真新しく冷たい水が入っている桶が吊るされている。

     フラワーロックの仔に比べると、栗毛の2頭は暑そうだがそれなりに走り回っている姿が見受けられる。

 

    「……うーん、厩舎も戻した方が良いかな?」

 

     秋子には扱いを任されているので自分の判断で動く必要があり、このまま放牧したままなら厩舎に戻した方が良いだろう。

 

    「良し、戻ろうっか?」

 

     名雪は肩に乗せていたリードを仔馬の頭絡にセットして、放牧地から厩舎に向かう。

     とは言え、夜間放牧が出来るようになっているので放牧地から路面に出る必要は無くそのまま馬房に連れて行けば良い。

 

 

     名雪はふんふん、と機嫌良さそうに鼻息を歌いながらスキップを刻みつつ家に戻っていく。

 

    「仔馬が夏負けっぽかったから、厩舎に戻しておいたよ」

 

     その事を報告すると、秋名は何も言わずに名雪の頭をクシャリと撫でて本人は嬉しそうに顔を弛緩させている。

 

    「暫らくは放牧させないで、厩舎に入れておこうと思う」
    「そう思ったなら、任せたぞ」

 

     ん、と名雪は撫でられて弛緩した頬にグッと力を入れてから、力強く頷く。

     そういえば、と秋名は何かを思い出したのかサイドボードからボールペンとメモ用紙を取り出して名雪に手渡す。

 

    「今年の2歳馬の馬名を宜しく」
    「うん、祐一と考えるよ」

 

     最後に毛色の事だけを聞いて名雪はトントンと階段を上がり自室に戻る前に祐一の自室に寄って行く。

     コンコンと、ドアをノックして暫らくすると祐一がのっそりとドアを開けて名雪を招き入れる。

     祐一の部屋の中は、シンプルに机とベッド、それに本棚くらいが置かれており壁には競走馬のポスターが貼られている。

 

    「何の用だ?」

    「秋名さんが馬名を決めろって」

 

     はい、と名雪はメモ用紙とボールペンを祐一に投げ渡して、祐一のベッドに陣取る。

     どっちを? と名雪が聞くと祐一は牡馬――芦毛馬を選択。

     暫らく2人は馬名を考える事のみに力を入れて、時間のみが過ぎ去っていく。

 

    「決定、と」
    「早いね」

 

     名雪が見せて、とせがむと祐一はメモ用紙を差し出して見せ付ける。

     その用紙にはサウンドワールドと悪筆の字で書かれていた。

     名雪は? と祐一が聞くと唸ってから蚊が飛んでいる程小さく囁く声でまだ、と俯きながら言う。

     ひょっこりとメモを覗くと、多数の馬名が書かれた後があるのだがその上から塗り潰すようになっている。

     ポン、と祐一は名雪の肩を叩いてから、親に馬名を渡すためと仔馬の世話を行うために1階に下りていった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特になし。