外は陽気に日が差しており雲が1つも浮かんでいない程、青い空が広がっている。
春らしく鳥のさえずりが聞こえてきており、木々には真緑の葉が多数付いている。
そして、近くの二十間道路では多数の桜がピンク色の花びらを咲かせて多数の観光客が見物に来ていた。
いつもの様に牧場関係者は近くに住んでいても見に行く暇も無く、作業を専念する方が優先されるのだから。
さて、今月にはようやく種付け出来る状態――発情しているので繁殖牧場に連れていく事が出来る。
それぞれの種付けは以下の通りに決定した。
フラワーロック×フォティテン。
ファントム×ワカオライデン。
そして、名雪と祐一が少ない時間で話し合って決めたのが、クイーンキラ×グランドオペラという配合。
秋子がグランドオペラを選んだ理由を名雪に聞くと、1番血統が良く安いからと語ってくれていた。
秋子もグランドオペラの血統の良さは着眼していたのだが、去年の種付けされたのが初年度なので食指が動かなかったとも言える。
もしも、産駒がデビュー済みだったら真っ先に種付けさせる事は確実だっただろう。
初年度産駒の成績が悪かったら、種付けをする確率は非常に低かったと言える。
それくらい初年度の種付けは雲を掴むような程リスクが多く、初年度の種付けはリスクを承知で勝負する大手牧場や中規模牧場が多い。
なので、名雪と祐一がグランドオペラを選んだ事が分かった時、秋子は感心えざるしか無かった。
「……リスクに恐怖しないのは羨ましいですね」
「そうだな。それとも秋子が歳を取ったか?」
余計な一言をはっきりと口にした秋名は、秋子の視線をサッと逸らしてから灰皿に置いていた煙草を指に挟み口に運ぶ。
秋子は何かを言いたげそうに秋名の端麗な顔を睨めつけるが、当の本人は淡々と表情を変えずに煙草を吸う事に専念している。
牧場と家族を守る役目があるので、秋子がリスク承知で攻めない事を秋名は批難しない。
それも1つの手段に過ぎないので、どちらが正しいかと問われたら答える方は難しい。
秋子は出来る限りのリスクを減少する方を選んだだけなのだから。
今年は秋子が繁殖牝馬を連れて繁殖牧場に向かう事になったが、キチンとレース録画の事を釘に指す。
さて、エアフリーダムが久しぶりに出走を果たす。
前走から約4ヶ月振りと本当に久しぶりの出走だが、故障をした訳でもなく冬場の調教を避けて春から再開しただけである。
とは言え、そのまま厩舎でぬくぬくと置いていた訳ではなく毎日、常歩で運動はさせていた。
なので、馬体重はそれほど増加しておらず成長分はキチンと増えているし、馬体も大分引き締まっている。
本日、出走する新潟競馬場の未勝利戦には前走2着馬が2頭に、4着以下が6頭。
その中に紛れてエアフリーダムは前走が3着馬なので、それなりに人気がある3番人気になっている。
上位人気の2頭は単勝2倍だが、エアフリーダム以下は10倍台と離された人気。
秋子は繁殖牝馬を乗せている馬運車の中でラジオを聞いており、現時点の人気を聞いて少しだけ眉間に皺が寄っている。
ラジオからはレース前に流れるファンファーレが規則的にデジタル音で流れて、ゲート入りが行われる。
「さぁ、スタートしました……先頭は……が行くようです」
時折ノイズが走るのは車の中で聴いている分仕方ない事であった。
「エア……は5、6番手といった所」
秋子は念の為に競馬新聞を開くと、エアの馬名を持つ馬が他にも出走している事に気付いて頭を抱えてしまう。
「どうかしましたか?」
「ええ……うちのエアフリーダムと相手の馬が冠名で被ったらしくて、今の実況では分かり難かったので」
その事を話している内にレースは中盤辺りになっており、残りの距離は800mといった所。
「淀み無く、淡々とレースは進んで行きます」
ペースは平均とラジオから音声が流れており、各馬はなかなか動かない。
残り400m。
直線に入り、各馬が動き出し徐々に激しく仕掛けを行いレースが動き出したようだ。
ラジオからはアナウンサーの実況が甲高い声で響いており、ここで直線に立った馬の名が呼ばれる。
その馬名はエアフリーダム。
残り10mの時点で3馬身突き放しており、既に勝負は付いた状態。
おめでとうございます、と馬運車の運転手に言われたので秋子は笑顔でお礼を言った。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。