Kanonファームに新たな生命が2頭舞い降りて来た。
前年に付けた2頭の種牡馬の血を引く仔馬は、たどたどしく自力で立っているがフラワーロックの仔と違い母馬に寄り添っている。
サクラユタカオー産駒は父に似た栗毛で、額には歪な形をした丸と星を組み合わせた様なマークが白くクッキリと浮かんでいた。
そして、アンバーシャダイ産駒は後右脚に球節まで白斑があるだけで、それ以外には何の特徴も無い。
因みに、フラワーロックの仔馬は母母父のへイルトゥリーズンに似たのか黒鹿毛となっており、外見からは威圧感がある馬体。
それぞれ上記から、牡馬、牝馬、牡馬となっており、これでデビュー前の牝馬数は4頭と後継馬の安心は出来る。
例え成績が悪くても、繁殖牝馬になれるので牡馬に比べると牧場としてはありがたいかもしれない。
ただ、牝馬は牡馬に比べると価値が若干安いのでセリに出す場合や庭先取引だと500〜1000万程の差がある。
血統が良くても、中小牧場としては牝馬より牡馬を望む方が圧倒的に多い。
秋子も基本的には牡馬を望むが、産まれてくれた仔馬なのだから選ぶような事はしない。
閑話休題。
数週間後には3頭の繁殖牝馬――ファントム、フラワーロック、クイーンキラを種付けさせるために繁殖牧場に連れて行く事になる。
出来るだけフラワーロックには高額な種牡馬を付けさせたいが、他の2頭がいるのでバランス良くしなくてはならない。
例えば、500万所持しているとしたら200万、150万、150万では無く180万と160万2頭の方が良い。
どこの中小牧場もこの様に考えており、1頭だけ贔屓して高額馬を付けると言う訳にもいかず、頭を悩ます事が多い。
秋子も同じように悩ませており、今年発行された種牡馬辞典を眺めながら3頭の血統を照らし合わせている。
去年までは2頭――ファントムとエターナルだけだったが、今年からは3頭になったので考える割合が増えた。
その分、新たな血統を取り入れる事としては牧場の活性化に繋がる行為なのだから。
「……こういう血統もあるのですね」
秋子は頬杖をテーブルに付けながら、ペラペラと新種牡馬辞典を捲っているがこれと言った興味を示さなかったようだ。
一応だが、グランドオペラ、フォンティテン、ワカオライデンが候補に上がっている。
どの馬も血統は良いのだが種付け料が安い種牡馬達であり、嵌れば爆発する可能性を秘めているのが好感度。
これ以外の候補が見つからない事が秋子の悩み。
ただ、誰もが一番血統を考える時期が楽しみなのは確かであり、自分が考えた血統がG�気鮠,辰燭藝嚢發世蹐Α�
この様に毎日、分厚い種牡馬辞典を捲りながら秋子は秋名と話し合いながら決めようとしているが、ピンと直感に来ない。
空――空胎にする手段もあるのだが、Kanonファームの経済では繁殖牝馬を遊ばせておく余裕は無い。
「なら……祐一と名雪ちゃんに任せてみるか?」
それも1つの手段だが、仔馬にミルクを与えている最中にこちらの事も考えさせるのは過酷かもしれない。
けれど、想像力では子供の方が勝っており論理的に血統を選ぶより、勘で選ぶ方が良いかも知れない。
理論を重ねて配合した血統を凌駕して、諸事情で配合を変更したりした馬の方が走ったりする事がある。
その事を考えると、第六勘に賭けた方が良いような感じもするが、秋子としては気乗りがしないのか眉間に皺が寄っている。
「うーん……1頭だけなら任せても良いかもしれませんね」
結局、秋子が出した結論は1頭――クイーンキラの相手種牡馬を決めさせるのは2人に任せる事になった。
その事をさっそく名雪と祐一に伝えるために、秋子は厩舎に向かう。
丁度、名雪がミルクを与え終わったのか哺乳瓶を洗っており、秋子が来た事を気付いたのか顔だけを振り向かせる。
「あっ、お母さん。何の用?」
秋子は種付けの事を切り出すと、名雪は顎に手を当てて暫し熟考をして小さく真剣な表情で頷いた。
種付け料はいくらまで等を秋子は教えてから、仔馬の様子を軽く見る為に馬房を覗く。
「大丈夫そうね」
「大船に乗った気持ちで任せてよ」
秋子はその言葉に頼もしさを覚えながら、不満も感じつつも微笑んで名雪の表情を見据えた。
その表情は実に自信溢れた曇りなき顔となっている。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:グランドオペラ……ニジンスキーを父に持ち、母父はヘイローと日本に馴染みがある良血馬。
注2:フォティテン……デビュー戦が重賞で勝利したヌレイエフの産駒。
注3:ワカオライデン……母母がテンポイントの母ワカクモとなっている。