季節は秋が到来しており、だんだんと冬が近づく。
風も厳しく、冷たいのが時折ビュウビュウと吹いて来る。
青々としていた木の葉はちょっとずつ、黄色と赤色が混じって染まっていく。
まだ、冬の到来には十分先であるが、準備はしておくに越した事はない。
とは言え、冬場は春に比べ日が昇る前に仕事をするため苦痛だろう。
雪が積もる量は北海道の内陸部に比べると少ないが、それでも寒さは厳い。
秋競馬の争点はシンボリルドルフの３冠達成――それも無敗での達成が可能かと言われている。
そして、今秋から開催される新Ｇ�機宗愁好廛螢鵐拭璽今咫⊇�華賞、マイルチャンピオンシップ。
海外馬を迎え撃つためのＧ�機▲献礇僖鵐�ップダート。
新たに追加されたレースではないが、今秋から天皇賞・秋は距離３２００ｍから２０００ｍに短縮される。
新たなファンが増えるかが競馬協会に掛かっている問題。
そのため、この５つの新規Ｇ�気�今秋から行われる。
競馬協会は特に短距離レースにもっとも力を入れていると言っても良いだろう。
長距離レースは世界で退廃しかかっているのだから、時代遅れと言っても良い。
イギリスでは最後の三冠レース、イギリスセントレジャーがスピード主義によって、狙う調教師が激減。
アイルランドセントレジャーは前年から古馬に開放しており、フランスのロイヤルオーク賞は１９７９年に古馬にも開放。
つまり、日本もスピード重視の波が遅れてやって来たので、競馬協会は短距離Ｇ�気寮�功に賭けていた。
だが、秋子にはまだこの事は全然関係無いので、ファンとして楽しむ以外はする事がなかった。
今週からは菊花賞のトライアルレース――セントライト記念と秋華賞のトライアルレース、ローズＳが行われる。
セントライト記念は日本で一番最初に三冠馬になった、セントライトの馬名から取ったレースである。
そして、このレースの出走馬表にはシンボリルドルフの馬名があった。
競馬新聞のシンボリルドルフの印を見ると二重丸が５つビッチリと並んでいる。
他馬の印はばらついており、馬券ファンからは２着争いが争点となっている。
ただ、３連単と３連複では３着馬の予想が困難となっていた。
春のクラシックを戦ってきた馬か、夏の上がり馬で連勝をしてきた馬のどちらかが来るのは確かであった。
そして、阪神２０００ｍで行われるローズＳは混戦模様であった。
出走馬の２頭が桜花賞とオークスの勝ち馬であり、上がり馬も出走しているがクラシックを戦ってきた馬の方が印は厚い。
秋子の馬が一頭中央に遠征する事が知らされたのは、新聞にある一般レースの出走馬一覧に自分の馬の馬名があった。
調教師に問い合わせてみると、水瀬さんが出走をと言いましたよ、と逆に問われてしまう。
秋子は返答に詰まってしまうが、勿論ＯＫは出しておく。
「因みに勝算はどれくらいですか？」
ガサガサ、と音を立てながら新聞をめくり、所有馬の印を見てみると― ― ― × 注、と最低人気と言っても良いほどの印である。
「まぁ……絶対は無いので１割くらいは」
勝算は一割くらいあればマシな方であり、勝てないと言われるよりは遥かに確率はある。
「では、入賞なら良さそうですね」
出走馬は秋子の馬を含めて９頭と少なく、３頭に負けなければ５着は拾える。
最後に体調を聞いてから、秋子は電話を切った。
さて、と呟いて秋子は外で作業を行っている秋名の元に向かい真相を問い詰める。
「私の声真似も捨てた物ではないな」
ニヤリと口端を吊り上げて、悪戯が成功した子供のような表情で秋名は笑う。
秋名はこういう悪戯が好きなのは、昔から変わらないので秋子は溜息を吐くしかなかった。
電話越しなので、調教師も秋子の声との違いを判別出来なかった事もあるだろう。
「姉さん、今度からは勘弁してください」
流石に、自分が知らぬ時に出走が確定したまま、レース時に出走を知るのは心臓に悪い。
秋名も流石に釘を刺されたら二度とはしないのか、分かったと答える。
乱雑に切ってあるショートヘアを弄りながら答えたので、ちょっとだけ不満そうだが。
「まぁ、今回は中央に出走出来るので大目に見ます」
ホッ、と秋名は胸を撫で下ろす。
所有馬は地方所属だけで、滅多に中央遠征は行われないので結果的には刺激のある悪戯だろう。
そして、秋子は先ほどと同じような言い方でもう一度釘を刺した。
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この話で出た簡潔競馬用語
注１：セントライト……日本初の三冠馬であり、一年に１２走も出走している。
特にダービーの一週間前にも走っている。