8月の半ば。
8月になってから、周辺の牧場には多くの観光客がやってくる。
競馬ファンの夏は北海道の旅行には牧場巡りで、引退した馬や現役馬に会うのが目的。
時折、マナーが悪い観光客が現れるが、それはごく一部である。
Kanonファームには有名な引退馬、繁殖牝馬はいないので滅多には観光客は来ないので閑古鳥が鳴いているだろう。
はぁ、と溜息を吐きつつも秋子は最も日差しが強い時間に作業をしているがその顔には落胆が無かった。
Kanonファームに牧場名を変更してからようやく、重みのある一勝をあげたのが落胆をしない理由だった。
一勝するのに時間が掛かるのは分かっていたが、ここまで長引くとは思っていなかったのが秋子の本心。
一勝目をあげた日はささやかなパーティーを行ったが、次の日からは通常通り毎日の作業を反復していく。
どこの生産牧場は生産馬の活躍を見守って、一勝をあげる度に手を抜くわけではない。
大手の牧場は一日に何勝もあげたりするが、中小牧場みたくに一勝をあげる度に大きく喜んだりしない。
その分、G�気鮠,辰燭藉遒屬�次の日には何も無かったように驕りすら見せない。
殆どの牧場は常に頂点を目指しているが、リーティングブリーダー上位5位は常に不動である。
取得賞金もkanonファームと比べたら月とすっぽんと言えるほど差は大きい。
だが、牧場を持つ者は誰も諦めない。
それが、競馬の側面である夢とロマンだから。
秋子もまた競馬の夢に魅せられた人物と言っても過言ではない。
例え、秋子自身がそれを否定しても、本心では肯定しているかもしれない。
んー、と背伸びをして柵の周りに生えている雑草むしりを終わる。
名雪にも手伝って貰っているが、やはりペースは上がらず1/4ほど進んだ所で名雪は脱落。
残りは、秋子が一人で進めていたが2時間ほど立ってようやく終了した時は涼しい時間になっていた。
秋子は放牧地を眺めると、放牧中の繁殖牝馬が草を食みながらのんびりしていた。
馬は長い牧草を好み、短い草は残すので放牧地が汚く見える時がある。
それは仕方が無いと思いつつ、秋子はやりきれない思いもあったが今はそこまで余裕が無いのが本当の事。
「お母さん、休憩したら?」
足元で秋子の色褪せた青いジーンズをクイクイ、と引っ張る名雪。
そうね、と秋子は呟いて牧場内にある木陰に移動をする。
家に接する木なので、それほど高さは無いが木陰が出来るので根元には古びた木製のテーブルと椅子が置かれている。
外での作業が終わった後の秋子の休憩場所はここが昔からの指定席であった。
秋子は椅子の背もたれに寄り掛かり、ふぅと一息吐く。
名雪は家に戻り、何かをするようだった。
しばし、牧場を眺めていると右頬にひんやりした物があてられ、ひゃっと声を漏らしてしまう。
ゆっくりと視線を右に移すと、コップに入っている氷とほんの少しの茶色の液体が見える。
「はい、お母さん」
「ありがと、名雪」
ひんやりと冷たくなっているコップを受け取って、冷たい麦茶を一気飲みする秋子。
ただ、地面をよく見ると名雪が歩いてきたと分かる場所は麦茶を零した跡が多数あった。
多分、コップ一杯の量面積まで注がれた麦茶の残骸であろう。
「祐一はいつ帰ってくるんだっけ?」
「3日後よ」
祐一と秋名は一度、東京に帰っているので牧場はいつもより静かで、蝉が鳴いていているが騒がしいだけ。
二人居ないだけで、ここまで静かになるとは秋子は思っていなかった。
蝉の鳴き声が秋子の寂しさを紛らわすように、常に鳴き続けている。
秋子は飲み干した麦茶をテーブルに置いて、雑草むしりの続きを開始する。
名雪も十分の休憩が終わったので一緒に手伝っており、さっきより機敏に雑草をむしって行く。
暫くして今日はここまで、と言って切り上げる。
時間が分からなくても、放牧されている牝馬が柵に寄っているので厩舎に戻せと訴えているのが分かったのが切り上げた理由。
結局、3/4程まで進んだ所で今日の雑草むしりは終了した。
厩舎に馬を戻すのは秋子の役目であり、危険なので今はまだ名雪にはやらせていない。
突然、立ち上がったりして暴れたりする事があるからだが、今日は名雪から引いてみたいと言ってきたので秋子は考える。
「……立ち上がったりしたら手を離すのよ」
はい、と手綱を渡すが名雪は緊張しているのか歯切れが悪い。
名雪が一歩を踏み出すと、馬も名雪の動きを手綱で引っ張られて肩を並べて歩く。
馬は鼻面を名雪に摺り寄せながら歩いており、馬が名雪の緊張を解している事が分かる。
「これなら、名雪に任せても良いかも知れないわね」
自分も馬を引きながら、先に移動をする栗毛の馬の尻尾と名雪の背中を眺めながら呟いた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。