サイクロンウェーブが春日特別に出走して1週間後。
Kanonファームでは本日、全員がTVの前にかじり付いてレースを見るようだ。
その理由はジェットボーイがシルクロードSに出走するからである。
前日のオッズでは5.6倍――約4番人気と言った所と競馬番組で報道されていた。
前走勝ちの評価+京都競馬場での成績が評価されての人気なのは確かであり、秋名もそれに釣られるように馬券を購入している。
馬券を見せてもらうと、1000円程度の単勝と普通の買い方であり、大口購入はしていない。
「たまには購入しないと勘が鈍るからな」
と、秋名曰く、購入した理由は単に勘が鈍らないようにするだけであって、プラスマイナスは関係ないようだ。
ヒラヒラと人差し指と中指に挟んで、指先で暫く弄んでいたがピンと弾いて秋子の前に飛ばす。
「当たったら、プレゼントだ」
「……ありがとうございます、姉さん」
まぁ、当たらないと意味無いがな、と恥ずかしそうに赤く染まった頬を掻きながら秋名は呟いた。
1000円馬券なので、オッズにも変動よるが最終的には5000円くらいにはなる。
秋子の事だから換金せずに保管しておく可能性もあるが、あげた物をどうするか口を挟む気は秋名には無いようだ。
「まぁ……結果次第で紙くずだけどな」
「そんな事無いですよ。外れても記念になりますし」
確かに単勝馬券なので、ジェットボーイの馬名と枠番がプリントされている。
ある馬のファンが出走していると、この様に単勝馬券を購入してお守り代わりにする事があるので、別に秋子がしても不思議ではない。
秋子は軽く馬券を唇に付けてから、テーブルの上に置きなおした。
リビングの壁に掛けられているシンプルな時計がある時間を示している。
短針は3と4の間、長針は5を指していた。
つまり15時25分――後15分もしたらシルクロードSが開始される時間である。
「後、少しですね」
ドキドキしているのか、秋子は自身の豊胸を抑えて右手でジッと時間が来るまで待っている。
馬場入場の際は入れ込んだ様子も無く、調子良く馬場入りをしていた事を思い出し、秋子の表情はにやけている。
人気はそこそこで得意な競馬場。
勝利が近い事は確信しているが、期待し過ぎると負けた時のギャップが空しいので出来るだけ平常心のつもり。
「最終的に6番人気ですか」
「ちょっと微妙な人気だな」
うーん、と秋子は顎に人差し指を添えつつ、首を傾げており微妙な人気なのは同意しているようだ。
考察している間に、レース発走前になっており秋子は慌ててTV画面に振り向く。
ジェットボーイは順調にゲート入りをするが、他馬がちょっとばかり嫌がってスタートが遅れる。
数分後。
無事に全頭ゲートイン入りをして、ようやくスタートが切られる。
スタートが遅れた所為で2頭が僅かに出遅れており、ジェットボーイには良い方の影響を与えている。
そのジェットボーイというと、逃げ馬と競り合って先頭を奪い合っている。
暫くすると、ジェットボーイより外を走っている馬の方が諦めて先頭を奪い返す。
やや縦長の展開となっており、ペースも徐々に速くなっていく。
600mの通過タイムは35.2秒。
このペースだとゴール時にはおよそ1:09台のタイム。
後方にいる馬は徐々に差を詰めてきて、4コーナーを回り残り400m。
そして、ジェットボーイは先頭に立ったまま直線に入る。
京都の直線は328mもあり、競馬場の中では長い方。
残り200m、徐々に中団に位置していたトウショウマリオが上がってきてジェットボーイを飲み込もうとしている。
ジェットボーイも流石に、前半の競り合いが響いたのか脚が上がってきている。
その点、トウショウマリオはまだ脚が余裕で残っているのか、スパッと交わしてしまう。
ジェットボーイはズルズルと、後退をしており完全に脚がなくなった。
そしてゴールイン。
勝ったのはトウショウマリオ。
ジェットボーイは突き放された4着に敗れてしまった。
Kanonファームには一瞬にしてお通夜の様に意気消沈してしまった。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:トウショウマリオ……トウショウボーイの甥であり、兄妹馬は重賞勝ちが3頭。