サイクロンウェーブが春日特別に出走した。
京都芝1800mの距離で行われ、外回りの馬場を使用するので下りの坂に気をつけないといけない。
この坂は3コーナーの前――向正面から上り始めて、中間辺りから下っていく。
高低差は約4mと非常に厳しいコースなのであり、菊花賞など長距離の大レースが行われるのが外回りコース。
このコースに散っていた駿馬は多数おり、如何に厳しいコースかが窺えるだろう。
「このコースは如何に下り坂で、脚を溜めるかがネックですね」
早めに仕掛けると外に膨らんでしまい、ゴールまで脚が持たない。
外回りなので直線は内回りに比べると76mも長い、404mもあるのでサイクロンウェーブの差し脚には向いている。
特に一度だけだが、このコースを走っているのは間違いなくプラス面であり、1戦1勝は大きな強み。
まぁ、距離は200m違う2000mのレースだったが。
これだけ勝てる理由があるので、確勝出来ると秋子は思っていたようだ。
だが、その目論見はあっさりとガラガラと音を立てて崩れてしまう。
スタートこそは良かったもの道中で他馬と接触でもしたのか掛かってしまい、差し馬なのに先行してしまう。
もうこの様に掛かってしまうのと、馬を御すのが上手いジョッキーで無いと直線まで脚を残せない。
と、勝てると思ったがレース中に掛かってしまい2番人気で8着と敗れる。
掛かってしまうのは計算外だったらしく、秋子はそのシーンを見て頭を抱えてしまっていた。
「まったく、掛かって負けるなんて……!!」
ぶつぶつ、と文句を言いながら秋子はTVの電源を消して放牧地に向かって行った。
眉間には深く皺が寄っており、如何に悔しい負け方が窺える状態であり、秋名も祐一も名雪も声を掛けられそうな状況では無い。
それくらい、秋子にとっては悔しい敗戦だったようだ。
今月の初レースは8着といきり立っていた所でいきなり躓いてしまう。
掛かっていなければ入着はあったかもしれないが、既に過去になっているので振り返っても意味が無い。
この敗戦を積にして次に進む事の方が大事なのだから。
暫くすると、秋子の表情はいつもと同じように穏やかになっており3人はホッとしている。
この話題は数日間だけ、念のために封印しておく事をキッチリとアイコンタクトで約束事として3人の中で決めておく。
「ジェットボーイはシルクロードSだよね?」
名雪が話題をジェットボーイの方に切り替えて、知らないふりをして秋子に質問をする。
京都だし得意の馬場だから勝てるんじゃない? と無責任な事をのたまう名雪。
そうね、と納得する秋子だが、年齢の事も考えるとそろそろ引退が近いのも確か。
幾ら、出走レース数――15戦しか走っていなくても、年齢の衰えはどの馬にもやってくる。
ジェットボーイも既に6歳――旧年齢で言うと7歳と高齢馬と言えるので、引退時期も考えなくてはならない。
「シルクロードの成績次第では、引退が近くなりそうですね」
つまり、負けすぎたら引退。
善戦だったら現役続行。
成績はこれといった物が無いので、種牡馬入りは厳しいと思われるし功労馬として自棄悠々の道しかない。
血統はそれなりに良いので、もしかしたら種牡馬入りは可能かもしれないが現時点では可能性は低い。
「まぁ……結果を楽しみにしましょう」
「その方が良いね」
秋子と名雪はお互いに見合ってから、クスッと笑いながら牧場作業を始めた。
さて、繁殖牝馬の方は早い馬で来月には出産可能っぽい馬がいる。
4月には1頭が出産予定。
時期が少しずれたのはフラワーロックの産駒であり、早ければ来月の上旬には産まれるようだ。
ファントムはいつもどおり、3月の下旬から4月の上旬辺りが目安となっている。
ただ、フラワーロックにはちょっとだけ問題が出るかもしれないので注意深く観察が必要である。
新しい環境での出産になるので育児放棄して、母乳を与えない事が低い確率だがあるかもしれない。
「一応、母乳用の重馬を借りる必要があるかもしれませんね」
「人の手で育てる余裕があれば、そっちでも良いけどな」
ふっくらと腹が膨らんでいるフラワーロックを見ながら2人は呟いた。
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この話で出た簡潔競馬用語
特に無し。