年明け最初のレースは2頭出しが決まっており、Kanonファームでは久しぶりの事になる。

     第一陣は新馬戦に出走する事をようやく漕ぎ着けた、エレメントアローが出陣。

     第二陣は淀短距離Sに出走するジェットボーイと、年明け最初のレースが中山と京都でそれぞれ出走確定。

     エレメントアローに関しては、調教していると後左脚の湾曲が僅かな熱を持ってしまい、調教がままならない。

     そのためようやく漕ぎ着けた出走なので多くの事は望まないように、と秋子が決めていた。

     ジェットボーイは調教師――久瀬 英一氏と決めた通り、OP戦を一度使ってみる約束からの出走。

 

    「どちらも勝つと良いんですが……」

 

     多く望まないと、決めたのだがどうしても気になってしまいポツリと独り言が洩れてしまう。

     そわそわとTVのチャンネルを何度も変えて、競馬開催時間になるまで秋子は暇を持て余していた。

     馬主として同時に勝利して欲しい願いがあるが、簡単に勝てない事は何度も味わっているのでその事は分かっていた。

     如何に中小牧場には厳しいかと言う事を。

 

    「まぁ……私としてはメインレースの方が楽しみだが」

 

     秋名はボンヤリと煙草を吸いながら、エレメンタルアローの初戦よりジェットボーイの方が気になっているようだ。

     重賞は2度出走した事があるのに、初めてのOP戦なのでこの結果次第でジェットボーイの実力が大体分かる。

     ここで勝てば重賞クラスの実力を持っている事になるが、負けたらムラがある馬と言う事になってしまう。

 

    「エレメンタルアローは脚元の問題があるからな」

 

     つまり、脚元の問題が無ければ期待は出来る、と秋名は言いたいのだろうが態度には出さず、口にもしなかった。

     そうしているうちにエレメンタルアローが出走する新馬戦が行われようとしていた。

     エレメンタルアローは4枠5番、人気は12頭中5番人気。

     ぽっかりと白い雲が多数浮かんでおり、中山の空は青と白が交じり合った中途半端な天気を醸し出していた。

     初レースなので馬群に包まれて泥や抉れた芝を被らない様に注意しながら、騎手は4番手に導いている。

     新馬戦はどの馬も始めてのレースなので、ベテランが上手い具合に教え込み次に活かせるようにする事が必要。

     ペース、息を抜く事、仕掛ける場所etcなどを1つずつ教え込ませていくが鞭だけは新馬戦で使う事はほぼ無い。

     その理由は馬が走る事を辛く感じてしまい素質が埋もれてしまうから、出来る限り行われない。

     なので、結果よりも過程の方がもっとも大事な事であり、負けても良い走りをすれば次走に繋がったと言える。

     レースは既に残すは直線のみとなっており、現在の位置取りは3番手に上がっている。

     中山競馬場の直線は短く、小回りのコースと直線半ばにある急坂が一番の難関。

     鞭は入れられずに走っているので、少しずつ少しずつと伸びて来ているが直線の短さが幸いして3着に流れ込んできた。

 

    「うん、これなら次回にも期待出来そうですねっ」
    「脚元は平気そう……だな」

 

     秋子は少しだけ溜息を吐いたが、着差がそれほど突き放されていなかった事が幸いだった。

     走っている時に脚を庇っている様子も無かったし、毎日患部を冷やしていれば何事も無く走れる事が分かったのも収穫。

     次の淀短距離Sまで、結構時間があるので2人はTVの電源を消して厩舎に向かっていった。

 

 

     次のレースは京都で行われるメインレース――淀短距離S。

     距離は1200mとジェットボーイにはもっとも走りやすく、京都の成績も2戦1勝1着1回と相性は良い方だ。

 

    「こっちは勝って欲しいな」
    「そうですね……でも、雪が降っているのが気になりますね」

 

     大雪でレース中止になる程では無いが、芝は薄っすらと白くなっておりダートコースはぐちゃぐちゃになりかけていた。

     ジェットボーイの人気は2番人気と、1番人気と差が無いのでかなり単勝が売れているのだろう。

     そして、スタートが切られる。

     ジェットボーイは少し立ち上がりが遅れるが、無難にゲートを出て先頭を奪い取る。

     やや重の馬場――芝の表面に雪が覆い被り、先頭のジェットボーイには関係無いが2番手以降の馬は泥を被り始めていた。

     泥を被るとやる気がなくなる馬がいる中、ジェットボーイは淡々とマイペースにタイムを刻んでいる。

     そして、最終コーナーまでこの縦長気味の隊列は変わらず、レースが進んで行く。

     ジェットボーイは一旦、息を入れてペースを落としたので先頭は入れ替わり2番手の馬がトップに立つ。

     残り200m。

     荒れた馬場が影響して中団以降に位置していた馬が伸びずにもがいている。

     ここでジェットボーイに鞭が入り始めて、徐々に先頭を奪う勢いでもう一度伸びる。

     先頭を走っている馬は逆に勢いが無くなり、脚が上がってしまいもはや交わされる直前。

     そのまま交わした勢いを維持して1馬身の差を付けて、ジェットボーイがゴール板を駆け抜けた。

 

 

     戻る      

 

     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。