外はちらちらと小雪が降り、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
その所為か現在歩いている者の髪には僅かに雪が付いており、暫らくすると水滴となってウェーブ状の髪に艶を出していた。
その人物は、シック調の古びたドアの前に手を掛けて古びたドアを開ける。
カランカランと古びたドアベルが響き、喫茶店百花屋に一人の客が入店してキョロキョロと辺りを見まわす。
雪によって僅かにしっとりとした黒いコートを脱ぎ、水滴になっていない雪を軽く払う。
店の中は賑わっており、女性の方が多く男性は殆どいない状態であった。
その為、店の中は香水の匂いなどが充満しており入店したばかりの女性は顔を顰める。
ウェイトレスが来る前に待ち人を見つけたので、入店した女性は待ち人が居る場所に行く。
待ち人はパフェを至福そうな表情で口に運んでおり、呼び出した人物が来た事を気付いていない様だった。
呼び出された人物―――美坂 香里はふぅと軽く溜息を吐いて、相手の対面に座りながら目の前にあるパフェのイチゴを摘む。
相手は自分の目の前にあるイチゴにしか目が行っておらず、1つ食べられたのは気付いて居なかった。
「名雪太るわよ?」
その一言によって水瀬 名雪は慌てて食べるのを止めて、スプーンをテーブルの上に投げる様に置く。
やや音が高かった所為か数人がこの二人の方を向くが、それも一瞬だけだった。
「あれ? 香里何時の間にかに来ていたんだ」
気付きなさいよ、と香里は一言洩らすが名雪は幸せそうにパフェに手を伸ばそうとする。
「所で用は何なの?」
香里は注文を聞きに来たウェイトレスにホットコーヒーと言い、深く座り直す。
名雪は目の前にあるパフェをテーブルの隅に退けると、真剣な表情に変え呼んだ理由を話した。
「はぁ……早めに行動を移していないから悪いのよ」
香里は並々と注がれているホットコーヒーを飲みながら、名雪の話を聞いていた。
名雪は唸ったり溜息を吐いたりしており、香里はただ名雪の行動眺めているだけであった。
「今からでも何とかなるかな?」
「さあね、それは名雪次第でしょう」
あたしには答えられないわよ、と付け足して香里は再びコーヒーに口を付ける。
暫らく、二人は沈黙してお互いに自分が頼んだ物に手を付ける。
名雪は食べるたびにハァ、と軽く溜息を吐くので香里は気分が落ちつかない様であった。
これは重症ね、と香里は名雪に聞こえない様に囁く様に呟く。
名雪は何時もだったら至福な表情でイチゴパフェを食べているので、喉に通らない程重症なのが長年親友である香里は分かった。
「今ぐらいしかチャンスは無いわよ?」
「そう……だよね」
今度は深く溜息を吐き、スプーンでパフェを突つきながらクリームを掬い取る。
名雪は暫らく、この行動を繰り返すばかりであった。
会計を済ました二人は、雪がちらつく中商店街を歩き出す。
暫らく歩くと、名雪は立ち止まって先を歩いている香里に向かって宣言をする。
「香里……わたし近い内に勝負に出てみるよ」
先を歩く香里は僅かに振り返って頑張りなさい、とたった一言だけ洩らした。
名雪はさっきと打って変わって、力強く頷くのを覗かせた。
「駄目だったら、慰めてあげるから安心しなさい」
香里のその表情は親友として、名雪を思っている表情であった。
名雪は何も言わずに頷き、自分に気合を入れる為に両手に握り拳を作り両腕を胸の前に掲げる。
言葉に出す事無く、名雪は自分に気合いを入れて先を歩いている香里の背に向かって走り出した。
「さて、あたしはそろそろ帰るわ」
香里は黒のコートの襟を直しながら、雪がちらつく中をゆっくりと歩き出す。
路面は殆ど雪が積もっていない状態であり、水溜まりとなった場所が多く見受けられた。
ブーツが汚れるのが嫌なのか、香里は軽く舌打ちをする。
「香里、今日はありがとう」
名雪がお礼を言った瞬間、香里は名雪の首元に腕を回して密着して耳元で一言囁いた。
その言葉は名雪の頬を赤く染め上げるの程、問題がある言葉だったようだ。
最後に香里は名雪の背中を勢い良く叩いて、名雪とは反対側に向かって歩き出した。
名雪が文句を言おうとするが、既に香里は人込みに紛れて後ろを向いたまま手をひらひらと振っていた。
香里が人込みに消えるまで見送った名雪は、もう一度気合いをいれて家に向かって走り出した。
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