祐一と佐祐理が騎手としてデビューした事で、競馬協会は新たな人員として競馬全体を引っ張っていく者かどうかを確認している。
本年度新人騎手の成績がどれだけ結果を出しているか調べる物で、年々地方競馬騎手や海外騎手の参戦数が増加中。
それに比べると、腕がある騎手を起用する為か新人騎手の育成は昔よりも疎かになりつつある。
そのため、この会議は今年デビューする新人騎手――中央と地方を含めたもので、垣根を取っ払い実力を持った者を育ていく為に行う。
総勢12名が今年のデビュー人数で、今の所は名騎手の弟で父が調教師の新人がデビュー日に重賞制覇を達成している。
続く新人騎手も父が元騎手で現在は調教助手となっており、早くも新人騎手最多勝利を争っている。
佐祐理は現在新人騎手の中で3番手として、ちょくちょく穴を開けて結果を出している状況。
勝利数は上位の2人に及ばないとはいえ、容姿端麗で女性騎手とは思えない度胸で欧州帰りの腕前で馬群を突破させる技術は目を見張る。
更に父の倉田隆道が欧州で馬主を営んでいるのも、騎乗数が集まっている理由であった。
つまり、上位3人は競馬関係者としてのコネを持つので、他の騎手よりはスタートが良いという状況も。
他の新人や地方新人騎手は3人のようにコネがあるわけでも無いので、不利があると言える。
だが、祐一だけはKanonファームのオーナーである水瀬秋子の甥で叔父はダービーのレース中に落馬して亡くなった水瀬祐馬と競馬に関する者。
それだけ、他の地方新人騎手よりも抜群にコネを持っている事になるが、中央とはライバル関係である地方競馬では武器になりえない。
競馬協会は祐一を含めた4人を売りにする訳でもなく、サポートする気も無い。
騎乗馬の手配などをしてしまうと、新人騎手が慢心してしまう可能性を秘めているのだから。
競馬新聞や雑誌も既にこの方針を競馬協会から打ち出された為、新人騎手のインタビューはレース後のみに留まっている。
目立ちたければ実績を積んだ方が競馬ファンからは好感触になり、重賞の騎乗も増加し、腕を磨く事が可能になるだろう。
「今年の新人騎手はそこそこ質が揃っているようですね」
「そのようだな……さて、どこまで日本競馬を引っ張ってくれるか」
会議に出席していた役員は本日の会議で使用された新人騎手の経歴と顔写真が張られた書類を見ながら、その様な事を呟いた。
日本競馬が世界に追いつくことを願っているのがありありと込められた口調で、それは日本競馬関係者の共通した願いだから。
その役員の言葉に会議に参加していた役員は一同に頷いて、本日の会議を締め括った。
さて、今週の競馬はNHKマイルカップが開催され、早くも名牝として人気になっているシーキングザパールが出走。
阪神ジュべナイルフィリーズで敗れた以降は重賞3連勝中で、牡馬相手に勝利したシンザン記念とニュージーランドT3歳Sが含まれている。
それだけ実績を積んでいる為、圧倒的1番人気に支持されており、競馬新聞も◎が5つと信頼感抜群の評価。
これだけの牝馬が出走しているが、牡馬の方は実力差が大きいと見られているのか、2番人気でさえオッズは7.4倍と大きく差を付けられている。
アーリトンCを制して、ニュージーランドT3歳Sで2着に入っているにも関わらずこの人気。
そのため、抽選を無事に潜り抜けて出走出来たKanonファームの生産馬――ピクシーダンスは18頭中16番人気。
まさに誰も気を留めない低人気で、競馬新聞も印が1つも推されておらず無印である。
だが、こうした低人気だからこそ一発を期待出来るので、逃げ馬として大逃げをするしかなかった。
スタートが切られると、ピクシーダンスはいつもの様に好スタートを切って、控える事も無くガンガンと先頭を走っていく。
2番手以降を6馬身近く突き放しハイペースで引っ張っていくが、何処まで脚が持つかは分からない。
とはいえ、折角出走したGⅠ――NHKマイルカップなのだから、勝てなくても見せ場は作らなければならない。
そして、3コーナー付近にある榎を超えた付近で徐々に各馬が進出し始める。
真っ先に動いたのはシーキングザパールでは無いが、圧倒的1番人気に支持されながら動き出すのが遅く感じてしまう。
だが、最終コーナーに入る直前でシーキングザパールが一気に牡馬を蹴散らして進撃してきた。
ピクシーダンスも粘るが直線の道中で他馬に交わされてしまった事が契機にズルズルと下がっていく。
そして、結果はシーキングザパールが圧倒的1番人気に応えて、GⅠ制覇を飾った。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。