Kanonファームの生産馬が新馬戦と500万下特別を2勝して、本年度は好調期の到来を告げたかの様に、安定した成績を2日連続叩き出した。

     重賞3着だった京都金杯も含めて、好スタートを切れたと納得出来るだろう。

     変則開催――3日連続開催とはいえ、年明けから2勝したのは今回が初めての出来事で、冬の間は放牧している事が多いKanonファームでは珍しい出来事。

 

    「明日の出走馬は居ないけど、今年は例年に無く好スタートを切れたね」
    「ええ、この調子がずっと続いてくれれば最高だけど、そうは問屋がおろしてくれないでしょうね」

 

     そんな事を口にしながら、秋子と名雪は車の中から流れる風景を眺めつつ、秋子はハンドルを握りアクセルを踏み込み、4WDを華麗に操って運転中。

     日高地区の牧場社長による会合の為、秋子は会場に向かっているのだが、一緒に名雪を連れてきたのは珍しい事であった。

 

    「わたしを連れて行くなんて本当に珍しいね……まぁ、まだ1回も行った事が無いけど」
    「そろそろ、会合とかを覗いて見識を広げても損は無いわよ……単純にサラブレッドを育成しているだけでは得られない情報も多いのだから」

 

     後はパイプの繋がりも得る事も可能よ、と秋子はしっかりと前を見て運転をしながら、会合などに出席するメリットを教えていく。

     名雪は流れていく牧場風景を眺めつつ、話を聞いているか話を聞いていない様な態度で曖昧に頷いている。

 

    「言いたい事は分かるけど、まだ時期尚早な気がするなぁ」
    「……そうは言わないの。先に知り合いを作っておいた方が有利になるわよ」

 

     うーん、と名雪は秋子が普段の中で顎に手を添えているようなポーズをして唸ってしまう。

     秋子はそんな娘を見て小さく苦笑いを漏らしてしまうが、名雪の表情は真剣に悩んでいた。

     それくらい悩ましい問題の様で名雪には納得出来ない部分があるのか、秋子の真意を探ろうとチラリと横顔を眺めるが、その表情からは何も読み取れない。

 

 

     会合を行う会場には多くの牧場社長が到着しており、秋子と名雪はそれぞれ挨拶をしながら会場の中に向かっていく。

     まだ会合は開かれていない様で数人の社長が談話や、今後の牧場経営について話しているようだ。

     秋子はその集団に近づいて年始のあいさつをし終えると、名雪を紹介する。

 

    「今回から娘の名雪を連れてきましたので、色々教えてやって下さい」

 

     秋子はペコリと畏まったお辞儀をして、それに合わせて名雪もお願いします、と丁寧にお辞儀をする。

     社長達はお互いに顔を見合わせて一瞬だけ呆気に取られていたようだが、実にあっさりとしたもので仕切りに頷いている。

 

    「秋ちゃんの頼みなら仕方ないな」

 

     1人の社長がその様に口を開くと他の社長も一同に了承しており、バンバンと馴れ馴れしく秋子の肩を叩いてから、名雪に向かって手を差し出す。

     名雪は差し出された手をおずおずと掴んでから、社長の顔を見据えつつハッキリとした口調で口を開く。

 

    「よろしくお願いします」
    「ああ、こちらこそよろしく」

 

     お互いに握手を済ませると秋子は社長を呼び出して名雪から離れた場所に連れて行く。

     周りに人が居ない事を確認すると、秋子は途中で購入した飲み物を社長に手渡してから、自身の今後を口添えし始めた。

 

 

     会合は前年度日高地区の生産馬成績などの話や、新種牡馬の共同導入に関する話し合いなど行われていく。

     秋子と名雪は手渡された資料を読みながら、1枚1枚ページを開いていった。

     資料には生産馬数のグラフがあり推移は去年よりも減少し、折れ線グラフが下向きに移行している。

 

    「去年よりも随分と減りますね」
    「700頭近くの減少と予想されていますので、これよりも少ない事を期待するしかありませんね」

 

     などと、日本競馬の発達が落ち込みそうな話が長時間に渡り議論され、結論は如何に走る馬を出して新規馬主を呼び込むかというものに。

     そして、数時間に渡る話し合いが終わると既に外は真っ暗に染まり、月が夜空に浮かんでいる。

 

    「……疲れたよ」
    「お疲れ様。これからは毎回、参加してもらうわよ」

 

     秋子の言葉に名雪はげんなりとして、わざとらしく肩を落として溜息を吐き出してしまう。

     それでも名雪は嫌とは言わずに参加する事を約束したに等しいので、ノーといえる立場ではない。

 

    「大体、年4回ぐらいしか行わないから、毎月という訳ではないわよ。重要な話が無い限り」
    「それなら良いんだけどね」

 

     と、そんな事をお互いに話しながら、秋子はしっかりとハンドルを握って自宅に帰宅していった。

 

 

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     この話で出た簡潔競馬用語

 

     特に無し。