Kanonファームに放牧されていたレッドミラージュとファントムロードが帰厩して、それぞれ条件クラスから再びOPクラスに戻る為調教が行われる。
93年度の産駒ではアイシクルランスのみがOP馬で、菊花賞の穴馬候補として2頭に大きく差を付けている状況。
既に神戸新聞杯に向けて徐々に調教をハードにして、追い切り1週間前ではラスト1ハロンが12.4と仕上がりは充実してきている。
そして、神戸新聞杯開催週であるため最後は軽めに坂路で調教して、ラストが12.5と体調維持がしっかりとされている印象。
権利を取る必要があるとは言え、100%の仕上がりでは菊花賞でピークに持ってくるのが難しい部分もある。
なので、今回の体調は80%程の出来と見ており、ここが本番ではない事をはっきりと伺わせる。
「3着以内に入ってくれれば良いんですけどね」
「そうは言っても、メンバーが非常に揃った状態だからな。厳しいのは変わり無いだろう」
競馬新聞にはダンスインザダークとロイヤルタッチに焦点を当てており、その次に続くのがイシノサンデー。
アイシクルランスは過大評価されている訳でもないが、4番手辺りの評価で“夏の上がり馬”として実力を発揮するか見られている。
春のクラシック路線組みに比べるとアイシクルランスの実績は劣っているので、この評価も当たり前。
「京都新聞杯が春に移行したから上位陣がここに集まるのは仕方ないよね」
「昔は菊花賞のステップだったけどな。時代の移り変わりとしか言えないな」
ふうっ、とその事に関して溜息を付くと、あっさりと吹っ切れた様な表情をしてから、再び競馬新聞を覗き込む。
今週の出走馬一覧は神戸新聞杯だけではなく、ルビーレイとホワイトファントムが新馬戦に出走するのが確定している。
出走する競馬場は違うが、共に1800m戦でデビューを迎えるのは中距離から長距離向きの父を持つのが理由。
ホワイトファントムは父メジロデュレンと長距離で成らした名馬で、今の短距離志向とは違い圧倒的なスタミナを誇っていた。
その割にデビュー戦が1800mの理由は母のファントム産駒は短距離から中距離をこなすので、どちらが適応あるかチェックする為でもある。
現代競馬はスタミナよりもスピードを重視しているので、骨董品に近い血統を父に持つホワイトファントムが何処まで対応出来るかが焦点。
因みにホワイトファントムの馬体は胴長で短距離馬の様に筋肉質ではなく、薄い筋肉を持つステイヤーなので、この距離では不明瞭な状況である。
ルビーレイの方も距離は長い方が向くと思われる馬体を持ち、牝馬らしくないスタミナを有していると思われる。
そんな2頭なので、スピード競馬に対応出来るか不明瞭な部分があるので9月の1800m戦がデビューとなった。
因みにホワイトファントムの印は無印であり、競馬記者は誰一人目を掛けていない事がハッキリと分かる。
それに比べるとルビーレイの方は△△△△○と4番人気辺りに支持されている状況。
「流石にホワイトファントムの方は人気になり難いみたいだね」
「父がメジロデュレンだしな。本来なら来年の春頃にデビューでもおかしくないからな」
「その点は仕方ないですよ。デビューを遅らせるよりも早めにデビューさせて経験を積ますのが厩舎の方針ですし」
ホワイトファントムが入厩している厩舎は出走数が多く、レース経験を積ます事を方針としているのが特徴。
そのため丈夫な馬が非常に多いので、叩かれて仕上がっていく馬には入着数が稼ぎやすいと言えるのだから。
晩成の可能性があるホワイトファントムには適した厩舎に違いないだろう。
そんな訳でまずはルビーレイが出走する阪神芝1800m戦がTVに映り始める。
綺麗なスタートを切り、中団辺りに位置して前の馬を見ながらルビーレイは駆けていく。
一目で存在が分かる赤い勝負服を着込んだ騎手は手ごたえ抜群の様で、ギュッと手綱を握って、馬群の中でルビーレイを走らせている。
淡々とペースが進む中、他の馬は入れ込んで騎手と喧嘩をしている馬が居るにも関わらず、ルビーレイだけは落ち着いたまま。
そして直線に入ると、1頭だけ別次元の走りで一瞬だけ開いた隙間を突いて、あっと言う間に突き放してしまった。
2歳牝馬とは思えない走りをして牡馬を蹴散らしたルビーレイは観客に最高のパフォーマンスを見せて来年のクラシックに向けて狼煙上げる。
さて、同時刻の中山競馬場で開催される2歳新馬芝1800mの方では、ホワイトファントムが最下位で終わった事だけが結果に残ってしまった。
まだチグハグしているレース振りで騎手が手綱を押しっぱなしにして、ようやく走ったのだから。
だが、遊びながら走った訳ではなく騎手が全速力で走らせたにも関わらず、息が途切れた事が無かったと騎手のコメントでスタミナを有するのが発覚した。
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この話で出た簡潔競馬用語
特になし。