厳しく冷たい風が勢い良く吹き荒れて、黄色と茶色、赤が交じり合った枯れ葉が大量に飛び散っていく。
既に北海道では本州の11月に近い気温を醸し出し、10月とは思えない程の寒さであった。
そんな中でも牧場作業は止める事は不可能で、日々の出来事が今後に直通してしまい、結果が大きく揺らいでしまう事もあるのだから。
さて、そのKanonファームでは1つだけ変化が現れ新たな日常として使われていく事になるだろう。
Kanonファームにある1週1000mのコース上に小さい何かが散らばめられて、馬が駆けるたびに欠片が強靭な脚で飛び散っていく。
それは足元に負担が少ない木屑――間伐材を使用した物で、ウッドチップと呼ばれる。
クッション性に優れ、排水性も持ち合わせているので現在は東西トレーニングセンターに取り入れられて、様々な馬が利用中。
脚力が付きやすいと言われているので、秋子も取り入れたに過ぎないが、いつまでもダートコースのみでは馬が成長しきれない可能性を危惧したからだ。
まぁ、実際の事を言うと先日Kanonファームに訪れた折坂調教師の進言があったからこそで、その言葉が秋子の背中を軽く押したようなものだ。
人と同じで馬だって同じ事の繰り返しでは飽きが出てくるので、Kanonファームではコースを左回りと右回りで日々の変化を行っている。
「どうですか? ウッドチップでの走り心地は?」
「劇的に変わるって訳でもないですが、随分と良くなりますね。ただウッドチップの撥ね上げが危険ですね」
と、スタッフの1人が良い点と悪い点を挙げ、参考として秋子はノートに一言書き込んでいく。
取り入れた事に関しては何も問題が無かったようで、今後は効果が現れるのを待つだけ。
数年は掛かるだろうが、休養馬の体調を整えたりする時に現在は利用するのみだが、ウッドチップでの調教方法を慣れる為には必要な事。
「ダートと同じ様に調教しても問題なさそうですが、使い分けた方が良いですね」
「そうだろうな、適材適所が違うだろうし」
秋名が横から口を挟み、秋子の言い分に同意している。
とは言え、現在の調教コースはこのウッドコースのみなので、いつかコース増加を行わなくてはならない。
ただ、現状ではもう1つのコースを造る程の資金は足りないので、空想に過ぎない。
「……まぁ、まずは資金が増えない限りどうしようもありませんね」
今年重賞を3つ制覇していても、Kanonファームの資金では大手牧場には
敵わない差が如実に現実として現れていた。
秋子は小さく肩を竦めると、テーブルの上に置かれている白いカップの中で揺らぐ黒い液体を軽く眺めてから取手を持ち口に運んだ。
コーヒーを口に付ける時に一瞬だけ秋子自身の表情が浮かび、その顔はいつも通り柔和の表情だったが、やや疲れた顔も一緒に浮かびあがっていた。
それを振り払うように秋子は冷め切ったコーヒーを再び口に付ける。
そして、今週はタイフーンがデイリー杯2歳Sに出走する。
京都で行われるこの重賞は数少ない2歳G�鏡錣如�他には京王杯2歳Sのみ。
こちらは1600m戦で後に行われる朝日杯フューチュリティーSと距離が一緒なので出走メンバーの数が多い。
特に今年は去年の覇者で現在も活躍中であるビワハヤヒデの半弟――ナリタブライアンが出走。
現在は3戦2勝で1敗は新馬戦でタイフーンに敗れた時のものだが、その時はゲートの影などに怯えていたが、現在はその傾向は見られない。
その理由は鼻のやや上に白いウレタン状の物体――シャドロールを巻き付けて、馬が変わった様に走り出したから。
「シャドロールのお陰で、本来の性能を引き出した様ですね」
「元の性能が良かったんだろうな……タイフーンが勝てたのは偶々かもしれないな」
タイフーンも能力はあるのだが、シャドロールを身に着けてからのナリタブライアンは2戦とも圧勝を繰り出していた。
その為、ナリタブライアンのオッズは圧倒的に1.1倍で、続くタイフーンが10.2倍の2番人気。
他馬も相手にならない程の差だが、2歳戦は何が起こるかが分からないので過信出来ない。
そして、レースが始まるとナリタブライアンはスッと中団に位置して、タイフーンは3番手からレースを進める。
古馬の様に堂々とした走りで他馬をまったく相手にしないで、圧力に屈せず駆けているのはナリタブライアンだけ。
「こりゃあ、物が違いすぎるな」
「どう見ても勝負は決したですし、せめて2着には入って欲しいですね」
ナリタブライアンの堂々と走っている姿は見る者を魅力させ、秋子と秋名でさえ、その姿に眼を奪われてしまった。
そして、ナリタブライアンは2着のタイフーンに4馬身の差を付けて圧勝し、タイフーンは新馬戦の勝ちをあっという間に帳消しされた気分だろう。
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この話で出た簡潔競馬用語
注1:ナリタブライアン……実際はデイリー杯2歳Sは3着だったが、こちらでは勝利。