駆ける馬　２２４話

　　　　　毎日王冠。

　　　　　ＧⅠを除く秋の重賞では最も格が高いと言っても良い程、天皇賞・秋に向けての重要なステップとして位置づけられている。

　　　　　１９９３年から過去１０年のレースを振り返ってみると、勝利馬だけではなく敗れた馬でも後にＧⅠを勝利している数が多い。

　　　　　１９８３年：キョウエイプロミス……毎日王冠３着から、天皇賞を制覇しジャパンカップを１０番人気ながら２着に突っ込んだ。

　　　　　１９８４年：カツラギエース……天皇賞は毎日王冠５着のミスターシービーに敗れるも、ジャパンカップは歴史的な日本馬勝利に貢献。

　　　　　１９８５年：ゴールドウェイ……本馬はその後に勝利出来なかったが、５着に入ったニホンピロウイナーがマイルチャンピオンシップを連覇。

　　　　　１９８６年：サクラユタカオー……この後は順調に天皇賞を制覇したが、２着と３着馬も後にＧⅠを勝利するニッポーテイオーとミホシンザン。

　　　　　１９８７年：ダイナアクトレス……ＧⅠ勝利は翌年の高松宮記念まで勝利出来なかったが、この年はジャパンカップ３着の実績が。

　　　　　１９８８年：オグリキャップ……この後の実績を書かなくて良い程の結果を出し、ＧⅠ３連戦でのタマモクロスとの接戦が歴史に残っている。

　　　　　１９８９年：オグリキャップ……連覇を果たしたが、２着のイナリワンとの叩き合いは非常に迫力があったと言える。

　　　　　１９９１年：プレクラスニー……天皇賞に出走するが、まさかの１着馬であるメジロマックイーンの降着によって棚ボタでＧⅠ制覇。

　　　　　１９９２年：ダイタクヘリオス……大駆けが多い本馬だが、この勝利によって見事にマイルチャンピオンシップを２連覇。

　　　　　と、この様に１９９０年を除くと快挙に暇がなく、これ程のＧⅠ馬を出す重賞は他に類を見ない。

　　　　　そんな重賞にストームブレイカーが本日、毎日王冠に出走を果たす。

　　　　「結構人気ありますね……重賞初挑戦なのに」
　　　　「今年の成績で５戦３勝だから、おかしくは無いだろう」

　　　　　負けた２戦は差し届かずの２着と４着なので、潜在能力が今年になって開花したと言っても良いだろう。

　　　　　けれど、今回の人気はシンコウラブリイとヤマニンゼファーがおり、マイル路線のトップクラスがいるので６番人気である。

　　　　　ある意味、今回は力試しで何処までやれるかが分かれば良いのが秋子の判断であり、ここで上位に入れば天皇賞・秋での走りが期待出来るのだから。

　　　　「今年になってから、一気に躍進した感じだな」
　　　　「そうですね。それとサクラユタカオーの産駒も結構走っていますから、その影響もあるかもしれませんね」

　　　　　今年になってサクラバクシンオーが高松宮記念とスプリンターズＳを勝利し、ユキノビジンがクイーンＳを勝利するなど好調。

　　　　　その勢いで、もしかするとストームブレイカーが毎日王冠を制する可能性があるので望みは捨てられない。

　　　　「さて、そろそろ出走だな」

　　　　　と、秋名はチラリと壁に掛かっている時計を見上げてから、リモコンを手に取りＴＶの電源を入れる。

　　　　　丁度、タイミング良くストームブレイカーが枠に入る時で、落ち着いた様子であり安心して見ていられた。

　　　　　ゲートが開き、一斉に各馬が飛び出してポジションを狙う為に殺到していく。

　　　　　ストームブレイカーは大外の８枠１８番からのスタートで、どの馬よりも距離ロスが多くデメリットはあったが、ワンテンポ遅れたスタートで内の方に寄る。

　　　　　これで、外を走らされた分の距離ロスでの負けは無くなったが、今度は上手く前を走る壁――他馬を綺麗に捌く必要がある。

　　　　「まぁ、この手段は仕方ないですね」
　　　　「そうだな……さて、どうなる事だか」

　　　　　現在、先頭を走っている馬は向こう正面に入った所で淡々と逃げる所か更にペースを上げて、ハイペースを刻もうとしている。

　　　　　このままペースが上がれば縦長の展開になり、現在は最後方に位置しているストームブレイカーにとって有利な展開。

　　　　　前の方でレースを進めているヤマニンゼファーとシンコウラブリイにはやや厳しい展開と言えるが、５～７番手にいるので息遣いは問題なさそうだ。

　　　　　そして、残り１０００ｍを示す５と赤い文字で書かれたハロン棒を先頭の馬が通過し、ゴールまで後８００ｍ。

　　　　　ここでストームブレイカーはスルスルと上がって行って、最後方から１０番手に位置する。

　　　　　残り６００ｍとなり、一気に加速しないのは一息吐いてから脚を溜めるに溜めて、爆発させる為だろう。

　　　　　他馬もドンドンと上がっていくが、シンコウラブリイとヤマニンゼファーはまだまだ位置をキープしたまま、差せるように逃げ馬の脚を計っている。

　　　　　東京コース特有の高低差が２ｍある坂が１００ｍも続いており、ここで加速してしまうと、坂を越えた後で脚が持たなくなってしまう。

　　　　　そして、坂の半ばを越えた辺りでストームブレイカーに鞭が入れられて、徐々に位置がめまぐるしく変わっていく。

　　　　　残り２００ｍ。

　　　　　ここで先に抜け出したのはシンコウラブリイで、ヤマニンゼファーは厳しいのか３番手で止まってしまう。

　　　　　残り１００ｍ。

　　　　　ストームブレイカーも勢い良く追い上げているが、シンコウラブリイには届かない位置だった。

　　　　　そして、勝利したのは悠々と先行押し切りのシンコウラブリイで、ストームブレイカーは良く追い上げたものも４着が精一杯だった。

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　　　　　この話で出た簡潔競馬用語

　　　　　特に無し。