外は陽気な天気であり、雀の鳴き声が聞こえて来る。
     だが、ある部屋はカーテンが閉まったままであり起きている気配は無い。
     その部屋で眠っている人物は、自慢のロングウェーブが乱れないようにゴムで一纏めしていた。
     纏めている髪は寝ている向きを変える度に一緒に揺れる。
     香里は気持ち良く眠っていたが、突如身体が重苦しくなって布団を押しのけて起きあがる。
     布団の上には子猫が包まって安眠をしていたようだが、香里が急に起きたので毛を立てて威嚇している。
     その猫は少なくとも、美坂家では存在を確認していない。

 

    「……なんで、うちに猫がいるのよ」

 

     と、呟いた後に香里は絶叫をこだまさせた。

 

 

     香里は子猫の首を掴んだまま、パジャマから着替えもせずにリビングに向かっていく。
     子猫は基本的に白い毛がベースだが、所々に茶色い部分の縞模様。
     首を持たれている子猫はニャー、と一鳴きして香里の眉間に皺が寄る。
     リビングでは栞と母親が談話をしており、香里の存在に気付いていない。

 

    「ちょっと良いかしら?」

 

     香里は語気を強めて、二人の談話を無理矢理中断させる。
     二人は香里の方に向いて、香里が話題を喋るのを待つ。
     自分の顔の高さまで子猫を持ち上げて、香里は何時連れてきたのと口にせずアイコンタクトで会話。
     そして、子猫はニャーと鳴く。

 

    「実はね、名雪ちゃんが連れてきたのよ。捨て猫らしいけど、家だと飼えないからって言ってね」
    「はぁ?!」

 

     あの猫好きでアレルギーの名雪が、と大げさなリアクションをして子猫の顔をジッと見てしまう。
     香里はこの子猫が水瀬家にいたとして、その時の名雪の様子を想像すると容易に浮かんでしまう。
     猫アレルギーによって、涙とくしゃみで凄まじい顔の友人を。
     その事を想像すると香里は小さく息を吐く。

 

    「はぁ……で家で飼うの?」
    「どうだろう。親猫が探しているかも知れないしね」

 

     母親は香里から子猫を渡してもらって、膝の上で丸くなって優しく撫でている。
     気持ち良さそうにうとうとしており、栞はうっとりと子猫を見つめていた。

 

    「世話は誰がするのよ?」

 

     香里はもっとも疑問な点を言うが、栞と母親がお互いに顔を見合わせて頷く。そして、二人揃って香里に向かって指を指す。

 

    「えっ……あたしがするの!?」

 

     親子らしく、息があったタイミングで頷きあっている。
     何故と言いたそうな表情だったが、この二人が決めた事は覆せないので香里は渋々と納得するしかなかった。
     はい、と子猫を香里の腕の中に手渡して母親と栞は何処かに出かけるようだ。

 

    「? 何処に行くの?」
    「トイレとかの猫グッズ買いに行くんですよ」

 

     なるほど、と香里は納得。
     玄関まで見送りすると、香里はさっきより深い溜息を吐いてしまう。
     足元では子猫がニャーと鳴きながら、擦り寄って懐いていた。

 

 

     香里が着替え終わって、リビングに戻ると悲惨なほど様々な物が壊れていた。
     テーブルの上に置かれていたコーヒーカップは倒れており、中身が零れて床に牽いてあるカーペットに染みを作っていた。
     ああ、と肩から力が抜ける様に床にへたり込む。

 

    「って、早くしないと染みが取れなくなるじゃないの」

 

     慌ててキッチンからタオルを取って汚れを落とそうとするが、あまり効果がないのでお手上げ状態である。
     真っ白のカーペットではないのが唯一の救いだろう。
     他には花瓶が床に転がり落ちて割れており、香里は眉間を押さえて深く溜息を吐いた。

 

    「そういえば猫は如何したのかしら?」

 

     ガラスの破片を拾いながら、辺りを見まわす。
     悪戯の後だけ何処にいるか分からないが、香里はちょっとだけ心配そうな表情を覗かせる。
     ニャーと声を上げたのは、リビングの隣にある和室からだった。
     良く見ると、僅かに襖が開いているので擦り抜けたのが分かる。
     そして、猫が居たのはタンスの上。
     香里より頭1つ半程の高さがあるのだが、乗った後はどうやら降りれなくなったのだろう。
     香里にはどうやって登ったかの方が疑問があるようだ。

 

    「はぁ……ほら、降りてきなさい」

 

     手を差し伸べるように出すと、猫は一声鳴いてピョンと飛び降りる。
     香里の顔に向かって。
     猫は香里の顔を踏み台にして、音もなく畳の上に着地を成功させる。
     踏み台にされた香里は、青筋を立てて怒りを浸透させていた。
     そして、追いかける。
     母親と栞が帰って来た時には香里はへばっており、子猫は香里の横で丸くなっていた。

 

 

     

 

     動物ネタが1つも無かったので、書いてみました。