既に時間は深夜を迎えており、月光がうっすらと輝く。
外は静まり返っており、都会の喧騒とは違い静かな夜が続く。
殆どの家は消灯されており、水瀬家の住民も既に例外無く眠っている。
カランと音を立てて溶けた氷が浮かぶウイスキー。
わたしはコップに口を付け軽く飲み、嘆いた。
「……どうして」
わたしは未だに囚われ続けているのが自分でも分かる。
もう何年……いや、何十年も毎夜この様に酒に手を出している。
わたしは残りのウイスキーを一気に飲み干す。
又、わたしはウイスキーを注ぎ足して、酒に感情を任せたかった。
今が夢だと信じて、酔って目が覚めればあの人がいた時に戻れるはず。
そう信じて何度も何度も繰り返して来たことだ。
「酔っているなら……いい加減に覚めて!!」
わたしはコップを掴みおもいっきり、投げつけた。
壁に当たり不愉快な音を立てて、ガラスの割れた音がわたしの心に響かせる。
液体と氷が床を濡らし、割れたガラスの破片が軽く輝く。
「これが夢なんでしょ!!早く今に戻してよ!!」
わたしは今、残酷な夢を見ているあの人がいないという夢を。
わたしは毎夜、自問しているが夢が覚めない。
―――馬鹿馬鹿しい、と自問自答する。
今が現実ぐらい分かっている。
けれど……認めたくなかったあの人がいない今なんて。
わたしの心は既に空っぽだろう。
あるのは喪失感のみが占めているのが自分でも分かる。
テーブルの上に置いてあるフォトスタンドではわたしとあの人が笑顔で写っている。
けれど今のわたしは笑っていない。
名雪に対しても本心から笑っておらず、本当の笑顔ではない。
仮面に近いのだろう今のわたしの笑顔は。
「秋子さん?」
リビングのドアはわたしが気づかない内に開けられておりそこには祐一さんがわたしを見て、驚愕な表情を浮かべていた。
「ど、如何したんですか。秋子さん」
「ふふっ、わたしは普段通りですよ。祐一さん」
わたしは立ち上がり、一歩も動かない祐一さんに近づいていく。
「祐一さん。わたしは今、夢を見ているんですよ」
ギシギシと床が音を立てるがわたしはそのまま進んで行く。
祐一さんは顔面を蒼白にして辛うじて立っている感じだ。
「わたしは、この世界は認めていませんよ。
あの人が今ここにいないのは、夢ですから」
「……どうして、そんな事言うのですか!?」
「何度も言いますけど、あの人がいないからですよ。
あの人がいなくなってから、わたしは毎晩考えてきました。
ここにいる水瀬秋子はただ眠っているおり、目が覚めれば元に戻れると思っているんですよ。
そう……あの人の元に」
困惑した祐一さんの顔がボンヤリと浮かぶ。
そして、わたしを軽蔑した様な表情。
「正直、秋子さんがそんな人だとは思わなかったですね」
「買かぶり過ぎですよ。……わたしは完璧じゃないですから」
祐一さんは踵を返しそのまま部屋に戻ってしまいました。
わたしは窓から入り込む月光に誘われて、ふらふらと歩いていく。
そう……別の世界に導かれる様な光に誘われて。
フォトスタンドと酒ネタがやりたくて書いてみました。
微妙なダークになりました。
秋子さんの内面って案外弱いと思います。