俺はテレビの2分割された画面に食い見つめる様になっているだろう。
     横では北川が巧みにコントロールを操作して、画面に映っている馬が指示されてコントロールと同じ動きをする。
     北川は先行している集団に取り付いて、インで走らせている俺の馬が外に回す羽目になるように仕掛けられた。
     差しの脚質である俺が利用している馬は切れ味で勝負するべきあって、この場所でスタミナを保存して直線で大外にぶん回すしかない。
     そして、一気に切り落とす。

 

    「北川、切り落としてやるよ」
    「やれるのかね? 相沢」

 

     現在は俺がコントロールしている馬から先頭まで3馬身ほどしかないだろう。
     北川は多分、ゴール前200mまで仕掛けをしないだろう。
     何故なら、今はスローペースなので前にいる方が有利だからだ。
     考えているうちに、既にゴールまであと1000mをきっている。
     先頭を走っているCOMの馬はちょっとの差を付けて逃げているが、これは問題にならないだろう。
     逃げ馬の後ろを走っているCOMの馬達はがっちりと固まっており、隙間は殆ど開かないだろう北川の手によって。
     俺の利用している馬の横に1頭いて、1馬身後ろに差し追い込み馬が集まっている。
     俺が仕掛けのタイミングを間違えれば、囲まれたまま仕掛けられずに最下位だろう。
     周辺の馬もジリジリと動き出して、既に3コーナーを越えた。

 

    「ここだっ!!」
    「ちぃ!!」

 

     この競馬場は直線が短く、先行馬が有利であるのでもう仕掛けるしかない。
     俺は隣接している馬を抜く為にスピードを上げて、隣接している馬と先行馬の隙間を通り外に出す。
     そして、直線に入る。
     直線に入ったことで、テレビのスピーカーからはコンピュータの歓声が 響いているがそんなのには気にしていられない。
     北川が利用している馬に競り合う様に密着させる。
     2分割されたテレビ画面には、俺と北川が利用している馬のアビリティが発動されたのを表示している。
     激しく馬を追うように十字キーの上を押し捲って、ワンテンポ置いて鞭をいれる。
     北川も同じ様にしている為、あまり差が現れない。
     COMの集団も迫ってきているが、どう見ても俺と北川の一気打ちだろう。
     ゴールまであと100mの表示が瞬時に99……98とカウントされていく。
     僅か鼻差ほど俺が使用している馬―――栗毛の名馬、グラスワンダーが抜け出す。

 

    「ふははっ、このレースは貰ったぞ」

 

     と馬鹿な台詞を自分で言っているのを自覚しながら、最期まできっちりと追う。
     が、外から矢の様にCOM馬が飛んできていたのは気付かなかった。
     WINの文字が大きくテレビの画面に浮かんでおり、勝利馬の馬名がミスターシービーと記されていた。

 

    「ぬあ」     「はっはっ、残念だったな相沢」

 

     北川が使用していた灰色の毛並みを持つ芦毛馬―――ビワハヤヒデは3着と表示されている。
     がっかりとする様に俺は肩を落とす。
     俺と北川はコントロールを放り投げる様に置き、一時休憩をする。

 

 

     暫らくはテレビの方を見ないで、北川と何時もの様に馬鹿な会話を楽しむ。
     そして、最終戦のコースと距離は東京2000mを選択してレースに使用する馬を北川から選ぶ。
     北川が選んだ馬を見ないようにする為に、身近に転がっていた雑誌に手を伸ばす。

 

    「良いぞ」

 

     北川が選んだ馬は得体が分からないが、俺も最高クラスの馬から選択をする。
     最終戦なので北川が選んだ馬は間違い無く歴史に残る名馬だろう。
     外国馬は利用しないルールなので選ぶ事は出来ない事になっている。
     さて、俺が選んだ馬は現役最強だと思われるディープインパクトを選ぶ。
     切れ味は最高に近い物だが、ゲートだけが難なので厳しいかもしれないがこの馬の脚に賭けよう。

 

 

     俺は決まった事を北川に告げると、テレビ画面は出走馬の印と馬名が表示される。
     北川の使用馬は赤い文字で記されているので直ぐに分かる。

 

    「サイレンススズカかよ」
    「相沢こそ、ディープインパクトじゃないか」

 

     悲運の名馬サイレンススズカは大逃げ馬として有名だが、悲運なのはこのコースでの故障が発生して予後不良になっている。

 

    「まぁ、ゲーム内だからリベンジをさせてやらんと」

 

     北川が言いたい事は分かるので、全力で勝負をする。
     そして、ゲートインが終わりお互いに抜群のスタートを切る。
     北川の馬は逃げ馬でありそれも大逃げを信条としており、俺の馬は最後方からまとめて薙ぎ切るタイプだ。
     対称的な脚質でのレースであり、東京競馬場なら実力だけで勝負が出来る。
     スタートしてから既にサイレンススズカは快調に飛ばしており、現在は1800mを越えた所だが、既に2番手の馬から5馬身は離れている。

 

    「北川、逃げ切れるのか?」
    「おう、捕まえられるもんならやってみな」

 

     動揺させようとしたが無駄だと分かったので、徹底的に勝負する為に脚を溜める。
     そして、残り1000mを通過した時のタイムは59.2と表示されていた。
     ハイペースの通過タイムであるので、北川は僅かにスピードを抑えたようだ。
     北川が利用しているサイレンススズカは既に3コーナと4コーナの間辺りにさしかかっている。
     俺の馬はようやく3コーナに入る目前であり、差が多過ぎて厳しいかもしれない。
     そして、サイレンススズカは距離が525.9mある直線を先頭で駆ける。
     COM馬は追い駆ける様に手綱を扱いて、激しくサイレンススズカを追い付こうする。
     が、他の馬のレベルは低いのが多いのでとても追いつけるとは思えなかった。
     俺は大外に進路を持ち出して、他馬を飲み込むように激しく手綱を扱く感覚でコントロールを操作する。

 

    「さあ、北川覚悟しろよ」
    「簡単に勝ちは譲るかよ」

 

     そして、二頭の馬はゴールまで一瞬も気を抜かずに青々とした芝の上を駆けた。

 

 

    「ちくしょう、次回こそは勝ってやるからな」

 

     俺は負け惜しみを言いながら、逃げる様に帰る。
     罰ゲームで負けた印として書かれた額の文字を隠しながら。

 

 


 

     競馬が分からない人には置いてけぼりかな。
     ゲームの内容はギャロップレーサーシリーズです。