ジリジリと日差しが窓によって鋭くなり皮膚を突き刺す。
     ……さて、どうしよう。
     オレの目の前にはテーブルに置かれている物体を凝視して、紙切れと携帯電話を持ちながら悩んでいた。
     紙切れにはこう書かれていた。
     【4名様で行く一泊二日の旅】
     つまり旅行券であり何度も見て、裏返してみたり透かしてみたが何処からどう見ても旅行券だった。

 

     

 

      カランカラン!!
     はぁ?

 

    「おめでとうございます!! 特賞の旅行券の当選です」

 

     回りには人垣が出来て、拍手が送られたオレはそそくさに旅行券を貰って退散をした。
     たまたま、シャープペンの芯を買いに行って手渡されたのが福引券だった。
     福引券にはサマーチャンスと1回分と書かれていたので遊びでやったらごらんの通り、当たってしまった。
     本当はティシュでも当たれば良かったが、旅行券が当たってしまったのでこの後何かあると疑ってしまったが何もなかった。

 

    

 

     日差しで熱くなったテーブルにうな垂れながら、旅行券を眺める。
     たまたま補助券と渡し違えた店に感謝するべきなのか?
     それとも、これは美坂を誘えと言う神の暗示なので必然の当たりだったのか?
     ……まずは相沢を誘ってみるか。
     かなりの確率で行くだろうし、相沢が行くとなれば水瀬も行くだろう。
     オレは携帯電話を相沢の携帯に掛けるとすぐさま声が聞こえてきた。
     事情を話すとダボハゼのようにすぐさま食いついて来た。
     ……単純な奴だなと心の中で思ったがどうやら悪口が分かったようだ。
     そういう時だけは感が良いなら、女性に対しても分かるように様になれよと思った。

 

     

 

      行き先などを教えてから電話を切る。
     さあ、次は美坂を誘うか。
     上手く誘えると良いが……確率としては半々だろうな。
     暫らく、着信コールが鳴り響くがいつも通り美坂の声が聞こえた。

 

    「よう、元気か美坂」
    「あまり、元気じゃないわよ」
    「ああ、あの日か」
    「……そんな事言う為に掛けて来たなら切るわよ」

 

     電話の向こう側で怒っている美坂の怒気が一瞬見えた気がした。
     オレは怒りを宥めながら話題を切り出した。

 

    「……と言う訳だが行かないか?」
    「受験の余裕があれば行っても良いけどね」

 

     ……やっぱり、受験の事を言って来たか。
     ならば、行きたがる様にして見せる!!

 

    「おいおい、今年の夏は何だ?」
    「……高校最後の夏でしょ」
    「そうだ。一日中机の前に座っていたらあっという間に終わりだぞ」
    「くっ……でも勉強してないと落ちつかないと言うか」

 

     おし、少しは傾いて来たな。

 

    「ふむ、ではオレ達は夏休み明けには黒くなって楽しさを語ってやる」
    「ううっ、あたしも塾が無きゃ行きたいわよ」
    「じゅくぅ? んなもん休め。夏は楽しんだ者が勝ちだ。部屋に引き篭って勉強している奴は負け組だ」

 

     今頃勉強している奴に喧嘩を売る様な事をしたが、これは本心だ。
     ……勉強がしたくないと言う訳じゃないぞ。

 

    「……く」
    「ん? 良く聞こえなかったのでもう一度頼む」
    「……行く、絶対行くわ!!」

 

     ストレスがかなり溜まっていた様だ。
     バサバサと音が聞こえるが参考書を放り投げているのだろうか?

 

    「ありがと、北川君。お礼に水着の期待しても良いわよ?」
    「じゃあ、期待しておくぞ美坂」
    「ふふっ、期待しておきなさいよ」

 

     オレはその後、ガッツポーズをしながら天に向かって叫んだが隣人に怒られました。

 

     

 

     様々な準備をして旅行当日。
     案の定、水瀬と相沢が列車に乗り遅れそうになるなどのハプニングがあった。
     それ以外は何も起こらなかったのが実に残念だ。
     そして、現在宿泊先――――ホテルの前にいる訳だが本当にここかよ?
     外見は何十階も積み重ねたツインタワーがあり、その中心には通路も見える。
     圧倒的な存在感があるホテルはまだオープンしてから幾日も経っていないだろう。

 

    「ねえ、北川君本当にここなの?」
    「ああ、……多分」

 

     多分って、馬鹿にした様に呟く水瀬だが聞こえてるんですけど。
     相沢と美坂は何故か驚きもせず、ツカツカと進んで行く。

 

    「なあ水瀬、オレ達がおかしいのかな?」
    「そんな事無い……と思いたいよ」

 

     つまり、オレ達は田舎者ですか。
     い、一緒にしないでと水瀬が訴えてくるが無視しておいた。
     先に行く二人に置いて行かれるのも癪なので、離れずついて行った。

 

     

 

    「ちっ、何で男と一緒の部屋にならなきゃいかんのだ」

 

     そりゃあ、こっちの台詞だ。
     オレだって美坂と同室が良かったけど、笑顔であっさりと交された。
     そして、目が笑っていなかったので泣く泣く断念した。

 

    「所で花火持って来たのか?」
    「当たり前だろ。海でやる花火は格別だからな」

 

     袋に仕舞われた花火を覗くが、多すぎないかこれは?
     馴染みのあるロケット花火やネズミ花火などが入っており線香花火などの類は無かった。

 

    「おい相沢、一泊なんだぞ分かっているか?」
    「勿論分かっているぞ」

 

     ……絶対分かっていないだろ。
     何かを弄っている相沢を無視してベランダに向かうとそこは絶景だった。
     直ぐ真下は透き通るぐらい真っ青な海が見え、飛び降りれそうな感覚になれた。

 

    「あら、自殺でもする気かしら」
    「失礼だな、このオレが死んだら世界の損失だぞ」

 

     ベランダにある壁際からひょっこりと顔を出して文句を言う。
     美坂は聞こえなかった様に海を見ている。
     その横顔は太陽の光の反射によっていつもより綺麗に見えた。
     そして瞳が一瞬、揺らいだ様に見えたが気のせいだろう。

 

    「あたしの顔に何か付いているかしら?」
    「いや、普通に整った眉に気の強そうな眼、透き通った鼻と薄い唇がついてるぞ」
    「あら、ありがと」

 

     あっさりと誉めた事を交されてしまった。
     ……うむぅ、照れもしないからなぁ。

 

    「ねえ、そろそろ海に行きましょ?」

 

     確かにそろそろ行かないと遊ぶ時間が減りそうだ。

 

    「じゃあ、ロビーの前で集合な」

 

     さっさと着替えて、シートなどをまとめてバックに積めこんだ。
     さて、二人はどんな水着だろうなぁ。
     ……じゅる。
     想像して出てきた涎を拭きとり、イザ突貫だ。

 

     

 

    「おい、北川手伝えよ」
    「へいへい」

 

     砂浜にホテルで借りたビーチパラソルを開いて、その下に大型のブルーシートを広げた。
     回りはそんなに客がいないので貸切状態に近い状況だった。
     数えられるくらいしかビーチパラソルが開いてなく、その数は両手で数えられるぐらいだった。

 

    「おまたせー」

 

     海を見ていると水瀬の声が聞こえてきたので振り向くと白いTシャツにうっすらと浮かぶ水色のビキニが見えていた。
     そして腰には猫柄のパレオを巻いており、水瀬らしさが伺えた。

 

    「二人とも目付きが厭らしいよ」

 

     こいつと一緒にするな、と同時に叫んでしまった。

 

    「まったく騒がしいわよ」

 

     ……ブラボー!!
     美坂は薄い黒レンズのサングラスを掛けていた。
     そして、水着は白いビキニだが胸と下着にはジッパーが付いていた。
     ここまで凄いのが見れるとは思いませんでした。
     二人とも体型は文句無しに、出ている所は出ておりそしてキチンと引っ込んでいる。

 

    「……どうかしら?」

 

     オレと相沢はだらしない顔をしたまま親指を立てた。
     こういう時だけしっかりと意見が合うなぁ。

 

     

 

      その後、沖まで泳いでボートに乗っている美坂と水瀬を落として怒られたした。
     ビーチバレーで美坂と組んで勝ったり、相沢が家からそのまま持ってきたスイカ割りをしたりして時間は過ぎて行った。

 

   

 

    「楽しかったよー」
    「勉強を忘れて十分楽しめたわよ」

 

     二人の顔は十分楽しんだ笑いが浮かび上がっていた。
     ここまで楽しんでもらえると誘って良かったぜ。

 

    「おいおい、まだ楽しみは終わってないぞ」
    「あー、確か花火持ってきていたよな」
    「夕食後打ち上げるつもりだから、名雪寝るなよ」
    「うー、そんなに直ぐ寝ないよ」

 

     他愛の無い会話を続けながらホテルに戻った。

 

     

 

      ホテルの従業員によると花火の音が止んだ後、何故か水びだしになった美女二人が戻ってきたと言う話が暫らく流れた。
     早朝、砂浜を散歩していた従業員によると丸い物が二つ顔を出していたと言う怪談が暫らくこの地に流れる事になった。 

 


 

     海とロケット花火になる前の過程小説です。
     最後のは満潮がありますけど口につける奴を付けていたと思って下さい。
     二人からのささやかなお仕置きで死にかけた二人でした。