喫茶店・百花屋
ここに三人の少女がいた
水瀬名雪、美坂香里、天野美汐、である
三人の座っているテーブルにはイチゴサンデーが2つ、コーヒーが2つ
笑顔で目の前の物を頬張っている名雪に対して
険しい表情をしている、香里と美汐
「……今日、どうして私は呼ばれたのかな?」
ふと手を止めて喋った、名雪の第一声
それに香里が応じた
「名雪、最近変よ?」
「ん? 私はいつもと同じだよ?」
のほほんとした、名雪の声
それこそいつもと変わっていないが……
「ストレートに言うわ。──相沢君に依存しすぎなのよ、貴女は」
「そうです。名雪さんの行動は明らかにおかしいです」
今日、この日まで
名雪と祐一は、休日を除いて、すべて百花屋に来ていた
傍から見れば、『恋人』のように見えるかもしれない
……祐一の、苦悶の表情がなければ
その表情を見て、名雪以外のメンバーは遠慮し始めた
今までやっていた自らの行為にも反省していた
つまりは、それだけな名雪の祐一に対する態度が酷いということだ
「従兄妹でしょう? 偶には名雪の方から何かしてあげなさい」
「『親しき仲にも礼儀あり』ですよ、名雪さん」
この、友人を思いやる二人の言葉に名雪は
「『飴と鞭』ってことでいいんだよね?」
笑顔で、そう答えた
香里と美汐には、その笑顔が、狂った笑いにしか見えなかった……
☆★☆
大体、あの娘が邪魔なのだ
祐一の妹か何か知らないけど、私の祐一を取るなんて許さないんだよ
祐一は私のものなんだから、ね
……そうそう
栞ちゃんや川澄先輩も祐一を狙ってる
美汐ちゃんはよく分からないけど
香里と倉田先輩は、微妙に揺れてる感じ
別に、いるだけなら私が飼ってあげるのに
祐一が望めば、ヤらせてもあげるのに
その前に、私がきっちりと躾けないと駄目かもしれないけど
あっ、香里ならいい雌猫にでもなりそう
素質、あると思うんだけどなぁ……
けど……
泥棒猫は絶対に許さない
私の邪魔をする人も許さない
──邪魔する人は、みんな消えちゃえばいいんだよ
☆★☆
今日
一つの電話と、メールがあった
電話の方は秋子さんから
内容は
『
名雪の様子がおかしいんです
深夜になると、物音と共に、名雪の笑い声が聞こえる
怖くなって、最近はあんまり眠れてないんです
』
こんな感じだったと思う
だから私は
『本人に聞かれた方がいいのではないですか?』
と、答えておいた
だって、相談されても対処のしようがないから
その後に来たメールは、俺宛に香里から
内容は、秋子さんと似たようなものだった
これには『用心に越したことはない』と返事をした
おかしいからって、名雪が親友を傷つけるわけないと思うけど
……人は、すぐ考えを変えるから
「これは、祐一にも言っておかないとね」
☆★☆
冷蔵庫の中が空に近かったので、外に出ることになってしまった
出来れば、祐姫と一緒にいたかったのに……
「はぁ……」
溜息を吐く
その時、ふと視線を感じた
「ん……?」
足を止めて振り向いてみる、けどそこには誰もいなかった
「……気のせい?」
まぁいいか、と歩き始めると、また視線を感じる
その視線を感じる場所は、臀部──
「……っ」
気持ち悪い
その感情を露にしながら、逃れるために走った
僕が走ると、後ろから足音が追ってきた
……ついてきている
夕方のこの時間
余り人がいないこの道だからこそか
捕まったら、何されるか分からないよなぁ
祐姫も待っていると思うから、僕は走るスピードを上げた
足音は、どんどん離れていく
それは視線の主の、諦めの意思か
それとも単に、脚が遅いだけなのか
そろそろマンションの玄関に着く
ラストスパートと、僕は更にスピードを上げる
足音は、聞こえなくなっていた
何か違和感を感じた
そして────何事もなく、玄関に着いた
そのままのスピードで、エレベーターへと駆け込む
最上階へのボタンを押し、目の前で扉が閉まるのを完全に確認して
「ふぅ……」
二回目の溜息を吐いた
☆★☆
「相沢祐姫……」
マンションの外に、一人の男がいた
「あぁ……美しいよ、祐姫……」
男は一枚の写真──そこには祐姫の笑っている姿が映っていた──を見ながら呟いた
「もう首輪を付けて、鎖で繋いで、飾っておきたいくらいだ」
男の狂った笑いが、ただ響く
「祐姫、君はもうすぐ僕のものになるんだ。──この、久瀬のものにっ!!」
一息
「その前に、あの憎き相沢祐一をどうにかせねば」
男──久瀬は踵を返し
「さて、準備をし始めねば」
マンションを立ち去っていった
が、久瀬は知らない
否、全ての人物は知る由も無かった
──それが、『終焉』だということに