兄妹は替わることを覚えました

それはたぶん……一生だと思う

でも、もしお互い戻る時が来るなら


──それは兄妹が壊れた時だけ……





☆ ★ ☆




夜明けが来る

人にとっては目覚めなんだろう

けど僕たちにとっては眠ること

そう、僕が私に、私が僕に……










私たちは教室の前に立たされていました

担当の石橋という先生がここで待ってろと仰ったからです

「皆、席へつけーっ」

石橋先生の声が響いてくる

「今日、転校生を紹介する」

こちらへ向かってくる足音が聞こえ、戸が開かれる

「入ってきなさい」

その指示に従い、私たちは教室の中に入った

教室はしんとしていて、皆は私たちを見ていた

「……相沢祐一です。これからよろしくお願いします」

「私は相沢祐姫と申します。これからもよろしくお願いいたします」

そんな事務的な自己紹介が終わり、席を案内された

そこは窓際の一番後ろの席で、兄様の隣のようだった

言われるがままに私たち席へ歩いていく

と、その時

「祐一っ!」

生徒の一人が叫んだ

声の聞こえた方を向くと、青い長髪の、どこか見覚えのある少女

名前はなんだっただろう、と考える暇もなく

その少女は兄様に詰め寄っていた

「ねぇっ、私だよっ! 覚えてない!?」

「覚えてないっていうか……何方ですか?」

どうも兄様の知り合いらしいです

「覚えてないのっ!? 私、ずっと待ってたのにっ」

襟元を掴んで、兄様の身体を揺らす少女

「やめなさいっ、名雪!!」

すると、先程までこのやり取りを見ていたウェーブヘヤーの少女が、兄様を問い詰める名雪という少女を止めた

「止めないでよ、香里っ!」

「落ち着きなさいよっ!」

脇を抱えるようにして、名雪さんを抑えている香里と呼ばれた少女

兄様はその様子を見ながらも、席についていました

慌てて私も席に着きます

「何、平然と座ってるんだよ、祐一っ!」

叫びながら、香里さんを振りほどこうとして手をバタつかせている名雪さん

その時

「いい加減にしろ、水瀬っ!」

という石橋先生の一声で、ようやく教室内が落ち着きました

そして、静かになった教室には石橋先生の低い声だけが響いていました





「今日はこれで終わりだ。気をつけて帰れよ」

あれから朝の様な事も無く、無事、転校初日を過ごせました

「商店街、寄ってくか?」

鞄に教科書を詰めながら、兄様が訊ねてくる

「はいっ」

野菜を一昨日切らしてしまっていて、今日にでも買いに行きたかったので、兄様の言葉はちょうど良かった

「ほら、行くぞ」

兄様に背中を軽く押され、ぽんと、前に出る

その勢いのまま歩いていきたかったのですが……

「待ってよ、祐一!」

朝の時のように、名雪さんが立ち構えていました

「……商店街に行きたいんだが」

兄様の、不満気な声

「ねぇ、本当に私のこと覚えてないの?」

「だから、知らないって」

少しの間、その遣り取りが続いて

最後に兄様は

「……帰るぞ、祐姫」

名雪さんを押し退けて行く、という行動に出ました

兄様は鞄を持っていない左腕で払い、通路を開けようとして

「待つんだよっ!」

その腕を捕まれました

「何すんだよっ!」

「昨日、うちに来たのに、私には挨拶もしてくれないのっ!?」

「昨日……? 叔母の家にしか行ってないはずだけど」

そうだよな、と振り向いて言うので

私はそっと兄様の耳元に近づいていき

「……たぶん、従妹の名雪さんだと思いますよ」

そう呟いた

水瀬という苗字と、聞き覚えのあった名雪という名前

その上に、相沢祐一を知っているという人物は、従妹の水瀬名雪しかいないから

「……なら、早くそう言え」

私にしか聞こえないほどの呟き

そして

「やっと思い出したよ。──7年振りか、名雪」

何事も無かったように、そう切り出していた

「う、うん、そうだね」

これには名雪さんも、溢すようにしか言葉を出せなかったようだ

「それじゃ。俺達、夕飯の材料買いに行かなきゃならないから」

「わ、わかったよ」

周りを見ると、呆気に取られている感じ

それに気づいてるのか定かではなかったけれど

「行くぞ、祐姫」

「はい」

私は、兄様と肩を並べて教室を出た










「どうして、言わなかったの?」

ベッドの上

僕たちは一糸纏わずの姿で、向かい合っていた

「祐一は気づいていたんでしょう?」

目の前にいる祐姫の唇から、お昼のことについて攻められる

「そうだよ」

隠していてもしょうがないので、僕は素直に明けた

「容姿だけでも言ってくれれば、こんなことにならなかったのに」

不満そうに、左腕を摩りながら呟く祐姫

その左腕は少し、手の形を残して痣になっていた

「ごめん。こんなことになるだなんて思わなかったから」

本当にそうだった

名雪には、そんなに力があるようなイメージじゃなかったのに

「今度からは言うから。……ねっ?」

祐姫は、しょうがないなぁ、という顔をして

「今日は、激しく犯して……」

僕に抱きついてきた

その行動に答えるように、僕は祐姫の、程よく手に覆えるほどの胸を力強く揉みしだいた

そして思う

これは祐姫には言わなかった

だって返ってくる答えはもう知っているから




──ただその一瞬、垣間見るその時でも僕だけを見て欲しいだなんて