外は朝日が昇っており、スズメのさえずりが聞こえて来る。
     鼻歌が部屋の中に流れ、その人物の機嫌の良さを伺える。
     奏でられたメロディはテンポがゆったりになったり、早く変わったりしている。
     しかし、ピタリと鼻歌は止まり腕を組みながら床やベッドに散乱している服を見て溜息。
     パンツ類やワイシャツ類が多く、スカート類が極端に少なかった。
     美坂 香里はまたに深く自分の服を見て溜息を付いた。

 

     

 

    「栞から借りる訳いかないわね」

 

     そもそも、これからのデートは栞には秘密なのだ。
     服を借りたら追究されて、誤魔化しきれるとは思っていない。
     誤魔化しても後から着いて来る可能性もある。
     そして、借りられてもサイズが合わないのは明白だ。

 

    「……服は仕方ないか」

 

     手に取ったのは白いワイシャツと黒のパンツでなんの特徴も無いシンプルの組み合わせだった。
     はぁ、と溜息を付きながら今着ている緑色のチェック柄のパジャマを脱ぎだした。

 

     

 

      着替え終わって鏡の前でチェックをする。
     うーん、と唸りどうやら淋しく映る様だ。
     右手で癖のあるロングウェーブをくしゃりと弄る。
     そのとき、何か閃いた様にガサゴソと化粧台を探る。
     出てきた赤いゴムを口にくわえて、髪をまとめる。
     ポニーテールになった事を鏡でじっくり観察する。

 

    「これで良いかしら……」

 

     最近買ったシルバーネックチェーンを手に取り身に着けてみる。
     そして、また鏡でチェックする。

 

    「これで良しと」

 

     ちらりと壁に掛かっている時計を確認するがまだ余裕があり慌てて飛び出す事も無いだろう
     と計算した香里は茶色の鞄を持ち、リビングに下りて行った。

 

     

 

      母親が既にキッチンで朝食を作っており、香里は挨拶をしてイスに座る。

 

    「あら、香里ちゃんがポニーテールにするのは珍しいわね。……もしかしてデート?」
    「だ、誰が相沢君とデートするって言うの!?」
    「はいはい、相沢君とデートね」

 

     ご馳走様と母親は呟き、調理を始めた。
     しばらく香里はボンと顔を赤くして沈黙してしまった。
     あうあうと唸り、テーブルにうつ伏せ状態になり髪が散らばる。
     コトリとコーヒーが置かれると香里は顔を上げて白地のカップに手を伸ばす。
     一口飲み、焼きあがったトーストを一口かじる。

 

    「母さん。栞には内緒にしておいて」
    「え〜、どうしようかな。お母さんは口が軽いし」
    「……今度ケーキ買ってくれば良いんでしょ」

 

     満足そうな表情を浮かべた母親はそれでOKのようだ。
     こういう所が栞にそっくりだと思いながら香里はトーストをかじりだした。
     時計の針は待ち合わせの場所に着くのちょうど良い時間を指しているので鞄を持って玄関に向かった。
     ハーフブーツを履きこむと同時に二階からトントンと栞が目を擦りながら降りてきたのが分かると香里は玄関からそっと抜け出した。

 

     

 

      待ち合わせに指定された駅前は賑わっており多種多様の人物が溢れかえっていた。
     駅前のベンチには待ち合わせの人座っているが祐一の姿はなかった。

 

    「少し早かったかしら」

 

     腕時計をチェックすると待ち合わせの5分前になっており、香里は空いているベンチに腰をかけてボンヤリと流れていく人を眺めた。
     そうしてボンヤリと眺めている内に5分立ったと同時に祐一が目の前に立っていた。

 

    「心臓に悪い登場の仕方ね」
    「気にするな。……ふむ」
    「な、何よ」

 

     顎に手を当てて、頭からつま先までじっくりと舐め回すように見つめる祐一。

 

    「グッドだぞ。香里」

 

     親指を立てて、太鼓判を押した祐一。

 

    「あ、ありがとう」

 

     ボン、と赤くなった香里はそのまま恥ずかしさから俯いた。
     祐一は香里の手を引っ張り、町の中に駆け込んで行った。
     その表情は楽しそうな顔が写っていた。

 

     

 

      その後は、ウインドショッピングを楽しんだりゲームセンターで香里がもぐら叩きでトップ更新したり恋愛映画を見て楽しんでいた。
     色々な事を楽しんでいる内に時間はドンドンと進んで行った。

 

     

 

      街灯が町を照らし出し、ポツポツと人が朝よりもまだらになって行く。
     それでも駅から吐き出されたサラリーマンが溢れ返っていた。

 

    「そろそろ帰るか?」
    「そうね、十分楽しんだ事だし次の楽しみも取っておきたいしね」

 

     そのまま何も言わず、祐一は香里の横を歩いた。

 

    「最後までエスコートよろしくね」
    「おお、任せておけ」

 

     

 

    「今日はありがと。十分楽しめたわ」
    「そういって貰えるとありがたい」

 

     表札は美坂と書かれており、ボンヤリと電球が表札を照らしていた。
     玄関の電球が帰宅する者を待つ様に輝いていた。
     カーテンからも光が漏れておりリビングでは既に料理が出ているだろう。

 

    「さて、そろそろ帰るか」
    「……ちょっと待って。目をつぶってくれない?」
    「ああ、良いけど?」

 

     がちゃん、と玄関が空く音が聞こえ香里は一瞬目線を動かすとそこには栞がこれからの成り行きを楽しんで覗いていた。

 

    「ほら、どうしたんですかお姉ちゃん。チャンスは今しかないですよ」

 

     微笑ましい事を言っているが顔はにやけていた。
     香里は栞が出て来たことでチャンスを失ってしまい肩を震わした。

 

    「し、しおりぃぃぃぃぃ!!」

 

     その後、香里がキスを出来たのかは定かではない。

 


 

     香里にポニーテールさせてみる。
     ただそれだけが今回の目標でした(w