ミーンミーン……
     ジージリジリジリ……
     ええぃ、蝉の鳴き声がうるさいです。
     タダでさえ暑いのに、この鳴き声を聞くと余計暑くなります。
     しかも、エアコンは酷使しても居ないのに停止するなんて根性が足りませんね。
     くっ、エアコンはわたしが涼むのを拒むのですね。
     麦茶は……素が空っぽなので作れませんし、この時期の水道水はぬるくて不味いですし。
     仕方がありません、氷でも舐めておきましょう。
     ……あら、一つも氷がありませんね。
     ああ、そういえばさっきカキ氷を作ったのが最後でしたね。
     やっぱり、わたしが涼むのを妨害されているんですねっ。
     それにしても名雪は良く、暑い中部活に精を出せるのが不思議です。
     名前に反してとは、この事を言うのでしょうか?
     それにしても、暑いです。
     テレビでは最高気温は35℃辺りになりそうです、とか言っていますしこのままでは体力が持ちません。
     着ているTシャツなんかは汗で肌に張り付いていますし、ハーフパンツも蒸し暑くて堪りません。
     ……着替えますか、祐一さんも外に行っているので見られる事は無いでしょう。
     夕方まで帰ってこないと言っていましたし、楽な格好の方が良いです。と、言うわけで着替えますか。

 

 

     ミーンミーン……
     ジージリジリジリ……
     ふう、さっきよりは楽ですね。
     タンクトップとショーツのみが、ここまで楽な格好だと思いませんでした。
     タンクトップは名雪の物を無断で借りたのですけど、少しって言うかかなり胸元がキツイですね。
     この事を名雪に言ったら、すごい剣幕で怒り出しそうね。
     扇情的なのが難点ですけど、祐一さんは居ないのは別の意味で助かりますね。
     これでエアコンが動いてくれたら最高なんですけど、どうにかならないかしら?
     扇風機は外の物置に置いてありますし、取りに行くのはこの灼熱地獄を越えてから蒸し暑い物置に入らないといけませんし。
     ……仕方がありません、団扇で我慢しましょう。
     パタパタ
     パタ……パタ
     パ……タ……パ……タ
     あー、もうこれじゃあ熱気をかき混ぜているだけじゃないですか。
     この暑さを乗り切るにはどうすれば良いんでしょうか?
     ……そうだ、水風呂の手段もありましたね。
     では、水を溜めないと。
     蛇口にホースを繋いで、準備完了っ。

 

 

     うーん最高ですね、この涼しさは。
     服着たまま、水風呂に入るのも懐かしいわね。
     昔は姉さんと一緒に入ってずぶ濡れになった後、親に怒られたのも良い思い出です。
     そういえば、濡れたまま部屋を歩いたから水びだしになったから怒られたんですよね。
     今、こんな事をしてもそこまでドジはしませんし、若い頃の思い出って所でしょうね。
     これで祐一さんが居たら最高なんですけど、この場にいないのに強請ってもしょうがないです。
     あー、本当に気持ち良いです。
     部活で頑張っている名雪には悪いですけど、今だけはわたしの特権です。

 

 

     ん、今誰かが帰ってきたような気がします……
     まだ、名雪は帰ってくる時間ではありませんし、まさか祐一さんが帰ってくるとは思いませんでした。
     ……って、落ち着いている場合じゃありません!!
     早く、この濡れた格好をどうにかしないと。
     ああっ、もう祐一さんの姿がうっすらとドアのガラスに映っています。

 

    「秋子さん、いるんですか?」

 

     はい、ここに居ますから入って来ないでくださいっ。
     と言っても裸じゃないんですけどね。

 

    「じゃあ、一緒に入りますか」

 

     ええっ、ちょ……ちょっと待ってください。
     ガラッ。
     祐一さんは汗びっしょりのTシャツを着たまま入ってきましたが、ちょっぴり残念です。

 

    「さて、わたしは出ますね」

 

     一人占めする訳にもいかないですし、それに下着が見られてしまうじゃないですかっ。
     えっと、祐一さんこの手は何でしょうか?
     がっちりとわたしの手を握っていますが、にんまりと祐一さんがたくらみ顔で笑っています。

 

    「一緒に入りましょう?」

 

     ああっ、もうそんな悪戯する時の顔で言われたら断れないじゃないですか。
     断ったとしても引きずり込む可能性が高いと思うので、どっちみち濡れるのは確実ですね。

 

    「じゃあ、少しだけですよ」

 

     わたしは風呂桶に足を乗せたところ、何か嫌な気配をうっすらと感じましたので後ろを振り返ってみました。

 

    「……何をしているのかなぁ? 2人とも」

 

     ダラダラと汗を垂れ流した名雪が鬼の形相でこちらを睨んでいます。

 

    「えっと……水風呂だけど名雪も一緒に入らない?」

 

 

     その後、秋子は祐一と一緒に名雪の手によって灼熱の中に1時間も、放り出された逸話が近所に残ってしまった。

 

 


 

     今年の夏はこういうシーンがある暑さはそんなに無かったので書いたみた。