空は灰色に覆われており、ポツポツと雨音が室内に流れ込んでくる。
     現在の時間は4時を指しており、春とはいえ灰色の空が室内を暗くしている。
     電気を付けられた室内―――美術室は既に蛍光灯をフル稼働していた。
     4階にある美術室は他の教室より空に近いため、蛍光灯をフル稼働しても薄暗いため、ポツポツと帰宅者を出していた。
     ボブカットの少女―――美坂 栞は鼻と口の間に鉛筆を挟んで白地のキャンパスを睨んでいる。
     キャンパスには不思議な絵の下書きが書かれていた。

 

    「むぅ……今日は筆が進みませんし、終わりにしましょう」

 

     残っている部員に一言声を掛け、美術室から抜け出して行った。

 

     

 

      トントンとつま先で昇降口を叩き、靴が入ったのを確認すると傘立てに入れてある傘を取ろうとするが一本も入って無かった。
     つまり、盗まれた事になるが朝から降っている雨なのに盗む人がいると言う事になる。
     朝は風が強かったのでビニール傘の者が壊れた傘の代わりに持っていった事になるだろう。
     ふぅ、と軽く溜息を吐くと栞は雨が降る中、昇降口を飛び出した。

 

     

 

      皮製の鞄を傘代わりにして、頭が濡れるのをカバーしているが制服は既にびしょ濡れになっていた。
     多くの水分を吸ってケープは重くなっている。

 

    「えぅ〜、誰ですか。私の傘を持っていったのは」

 

     バシャバシャと水溜まりを避けずに駆け抜けて行く為、靴の中は気持ち悪い感覚になっており
     並木通りでは泥水を踏みしめながら駆けて行くので縞模様のソックスになっていた。

 

     

 

      十字路に差し掛かった時、スッと角から出て来た人とぶつかり、当然二人とも身体を濡らしてしまった。

 

    「……大丈夫かしら?」

 

     スッと出された手が出される前に栞は文句を言おうとしたが、濡れたコンクリートに何時までも
     座っている訳にも行かないので手を掴んで立ち上がった。

 

    「どうしてくれるんですか?! 制服が更にびしょ濡れじゃないですか」
    「……悪かったわね」

 

     女性は元から濡れているじゃない、と聞こえない様に呟く。
     既に二人とも頭からびしょ濡れになっており、ほっておけば風邪を引くのは目に見えているだろう。
     ふぅ、と女性が溜息をついて折れた様だ。

 

    「……分かったから家に来なさい。そのまま帰るわけにも行かないでしょ?」
    「襲ったりしませんよね?」
    「……しないわよ」

 

     二人とも水溜まりに落ちた荷物を拾い上げる。
     疲れた様に答える女性はそのままバシャバシャと水溜まりを歩きながら、
     栞も同じ様に水溜まりを歩きながら女性の後を追って行った。

 

     

 

      目の前にある古びたコンクリートのアパートは外装が剥がれ、白かったと思われる壁は汚れが不思議な色を描いていた。
     このアパートは公園付近にある古びた建物なので子供が良く探索する所であった。
     灰色の空が更に不気味さを描いており、栞ですら少し退いていた。

 

    「えっと……ここですか?」
    「……そうよ」

 

     アパートの室数は4部屋となっており2階も足すと8部屋あるが入室希望者は少なく、4部屋空いるため不気味さで入る人が少なかった。
     女性は鍵を差し込んで、玄関を空けたが栞は恐る恐る部屋を覗くが外見と裏腹に室内は綺麗な部屋だった。

 

    「おじゃまします」
    「……どうぞ」

 

     ポタポタと雫を垂らしながら、部屋に向かって行った。

 

     

 

    「さっぱりしました」
    「……良かったわね」

 

     シャワーを借りてさっぱりした栞と身体を拭いただけの女性。
     栞は借りた白のワイシャツとジーパンを穿いているがサイズが合わない為裾が余っており、ズルズルと引き摺っている。
     女性は、煙草を吸いながら外を眺めていた。

 

    「何か見えるんですか?」
    「……別に何も見えないわよ」
 

 

      ヒョイ、と栞は外を覗くと確かにこれといった物は見えない。
     良く見える物といえば噴水がある公園ぐらいだろうか。
     この天気だと賑わっておらず、ただ雨を打ちつけるだけだった。

 

    「質問良いですか?」
    「……良いわよ」
    「何で私を家に上げてくれたんですか?」
    「そうね……ただの気まぐれよ」

 

     煙草の灰を灰皿に落とし、口に咥えた。
     吐き出された紫煙は、すぅっと空中に消えていった。

 

    「本当ですか?」
    「気まぐれ以外何があるのかしら?」

 

     暫く、沈黙が続き話が途切れる。
     栞はむぅー、と唸りながら女性の顔を見ていた。
    「んー、そう言う事にしておいてあげます」
     顎に人差し指をあてながらいう栞。
    「……そうしておきなさい」
     はぁ、と溜息をつくと同時に動いていた洗濯機がピーピーと鳴っており洗濯を終了した事を告げている。

 

    「……後はアイロン掛けておくわ」
    「良いですよ。そこまでしなくても」
    「さっきも言っているけど……気まぐれよ」

 

     

 

    「ありがとうございます」

 

     栞は借りた服をそのまま着ており、制服は袋に包まれて手提げ袋に入っていた。
     相変わらず、外は灰色の空に包まれており雨も若干強くなっていた。

 

    「服、いつ返せば良いんですか?」
    「……いつでも良いわよ」

 

     借りた傘を広げ、階段を降りて行く。
     階下に下りる前にペコッと頭を下げるとそのまま階段を下り、アパートを見上げ栞は帰路についた。

 


 

     何だろうこの小説。
     オリキャラかもしれない。
     姉妹縁を切った香里と栞かもしれない。