はぁ、あたしは何をしているのかしら。

     チラチラと降り続ける雪を家の中から眺めつつ、憂鬱な気持ちになってしまう。

     まったく、何であたしがクリスマスの日に1人で家にいなきゃならないのよ。

     屈辱的だわ……栞に先を越されるなんて。

     お母さんとお父さんはクリスマスデートとか言って、さっき出掛けて行ったし。

     TVのニュースではカップルが多数映っているので、コタツでぬくぬくしているあたしには眩し過ぎる。

     ううっ……いくらなんでも、これは寂しすぎる。

     はぁ、誰かを呼ぶしか無いか。

     名雪は秋子さんと出掛けると言っていたし、パス。

     そうなると、相沢君か北川君か。

     でも、そうなるとあたしって友人少ない?

     仕方ない、あたしの暇つぶしに付き合ってもらおうかしら。

     充電器に差し込んだままの携帯電話を外して、まずは北川君に掛けてみる。暫く、着信音が鳴っていたが出ない。

     次は相沢君、登録してある番号を押して11桁の番号がサッーと出て、着信音を鳴らし続ける。

     ……ちょっと、こっちも全滅!?

     ええいっ、もう寝る!!

 

 

     そういえば昔、隣の家に住んでいたお姉さんはサンタクロースの事を居るとか言っていたわね。

     あたしは否定していたけど、栞だけは目を輝かせていたのを今でも思い出せる。

     お姉さんは大人になれば分かると、言っていたけどすっかりと忘れていたのねあたしは。

     その後、お姉さんはクリスマスイブの日に引っ越したのは確か。

     サンタクロースが連れて行ったきりあたしとは会っていないし、もちろん栞も会っていないだろう。

     サンタクロースはこういう意味だったのね。

     今年はあたしの元にはサンタクロースは来なかったか……もう寝よう。

 

 

     ……コツ。

     ……コツコツ。

     コツコツコツ。

     んもう誰よ、窓を叩いているのは。

     ……ここは2階よね。

     辺りを見回すと確かにこの部屋はあたしの部屋であり、突然1階に部屋全体がテレポートする訳は無い。

     いくらなんでもそんな非現実があっさり起こるとは思えないし、このノック音は泥棒かしら?

     泥棒がノックするのは無さそうだし、カーテンに映る影は腕だけだが、筋肉質とは言えない。

     あたしは足音を立てないように、恐る恐ると窓に近づいていき、勢い良く青のカーテンを開ける。

 

    「……何しているのよ、相沢君」

 

     サンタクロースの格好をした相沢君は震えながら、ヨッと挨拶するように手を上げる。

     窓を開けると、少しばかりの粉雪が部屋の中に舞い込んで来た。

     部屋に招き入れる前に身体中に降り積もった雪を払わせて、あたしの部屋に入れる。

 

    「ちょっと待っていて」

 

     あたしはストーブの電源を入れつつダイニングに向かってお湯を沸かす。

     レトルトコーヒーは空っぽ、1つだけポツンとホットレモンの粉末が入った袋が置かれていたので、お湯を入れて持っていく。

     部屋に戻ると、相沢君は白い付け髭を外して、ぬくぬくとストーブの火にあたっていた。

 

    「はい、ホットレモン……んで、何をしていたのかしら?」
    「サンキュー……うむ美味い」

 

     ずずっ、と音を立てながら相沢君はホットレモンを啜り、あたしを見ている。

     まぁ、落ち着けと言いたいのだろうか、相沢君ははぐらかしているように見える。

 

    「ふぅ、暖まった」
    「忍び込んだ理由を早く言ってくれない?」

 

     いつの間に忍び込んだかが気になるが、理由の方が先だ。

 

    「んにゃ、香里をさらいに来た」

 

     ……え、何、嘘、ええー、ちょ、ちょっと何を、何を言っているのよ!!

     あたしの顔は多分って言うより、確実に真っ赤かに染まっているだろう。

     相沢君はいつの間にサンタ服のポケットから何かを取り出して、ボタンを押していた。

 

    『香里ちゃん、良かったわね。相沢君にさらわれるなんて、あっお父さんには きっちりと言っておいたから』

 

     これだけを告げて、ボイスレコーダーは止まった。

     はぁ……あの母親は娘がさらわれるのに文句無いのかしら。

 

    「と言う訳で、さらわれてくれるか?」

 

     あーもう、こんな事をされて断れる訳無いじゃない。

 

    「しっかりと、さらってよ?」
    「任せておけ、お姫様」

 

     相沢君はあたしをひょいっと持ち上げて、俗に言うお姫様抱っこをして階下に降りていく。

     ギュッと相沢君の身体に抱きつくと、暖かさが伝わってくる。

     抱っこされたまま、玄関に辿り着くとタイミング悪く栞が思いっきりドアを開けて、この姿を目撃されてしまった。

     ニヤリと口端を釣り上げた栞が、ジッと新しい玩具を手に入れた子供のような目付きであたしを見ていた。

 

    「よう、栞。香里は頂いていくから」
    「お持ち帰りですね、どうぞご自由に」

 

     物みたく言われているが、もうどうにでも良いわ。

     ……サンタクロースは本当に居たのね。

     恋人と言う名のサンタクロースは。

 

 


 

     初めてのクリスマスSS。
     元ネタはある歌ですよー