人が多数歩いており、日曜日の商店街らしく賑わっている。
     その一角で最も賑わって場所は5〜7人程の主婦が並んでおり、手には何かが書かれている紙を握っている。
     その中には、一人だけこの場に似合わない人物が並んでいた。
     親子ならいるが男子一人で並んでいるのは、逆に一人もいなかった。
     その人物は祐一であり、気まずそうに並んでいるのが表情で読み取れる。
     すぐ終わるから良いか、と周囲にいる人達に聞こえないように呟く。
     数分ほどすると祐一は先頭に立っており、目の前には福引の回す物が置かれている。
     そう、ここに並んでいたのは福引の為であるが祐一はあまり当たると思っていない。
     秋子から買い物を頼まれたついでに補助券を含めて、3回分出来ると言われて渡された券である。
     壁に掛かっている賞品名を眺めると、ポケットティッシュなどごく普通な賞品であった。
     特賞は旅行券10万円分という太っ腹な物だが、どう見ても当たると思わなかった。
     どうせ中身抜いているんだろうな、と祐一は心の中で呟いて補助券などを全て渡す。

 

    「では、3回どうぞ」

 

     ガラガラ。
     白――ポケットティッシュ。
     ガラガラ。
     白――ポケットティッシュ。
     そして、最後の1回。
     ガラガラ。
     赤い玉が出て来たが、ガランガランとベルは鳴らなかった。
     渡されたのは、ビール1箱6本入りが3箱の賞品。

 

    「……買い物前に邪魔な物が出来てしまった」

 

     はぁ、と心の中で呟いてビールが入っている袋を眺めつつ、祐一は買い物に向かった。

 

 

     水瀬家に帰ると、秋子は祐一が帰ってくる時間が分かっていたように佇んでいた。
     実際はただ移動している時に、鉢合わせしただけだが。

 

    「おかえりなさい、祐一さん」
    「ただいま。秋子さん」

 

     どさどさ、と複数の買い物袋を置いて祐一は手首をぶらぶらと振っている。
     秋子は見なれない袋があるのに気付いて、中身を確認しているのを気付いた祐一は事情を説明する。

 

    「福引で当たったんですけど、飲みますか?」

 

     秋子は手を顎にそえて、ジックリと考えている。
     そして、出た言葉はいつもと同じ答えだった。

 

    「了承」
    「じゃあ、名雪も入れて夕食後に飲みますか?」

 

     祐一は缶を持っているような仕草をして、中身を飲むポーズにする。
     秋子は微笑みながら、お酌お願いしますねと呟いているのでお酒は満更嫌いではないようだ。
     名雪はこういう事に関しては以外と頑固なので、祐一だけでは説得が難しいだろう。
     しかし、秋子が了承した事で名雪は落ちたのも当然だった。

 

    「ふふっ、名雪は強いのかしらね?」
    「以外と強い方に賭けますよ」
    「あら、祐一さんはギャンブラーですね」

 

     お互いに笑いながら、買った物を冷蔵庫に入れる為にキッチンに向かって行った。

 

 

     そして、夕食の時間。
     いつもの様に普通の料理が色鮮やかに並べられているが、今日は量が少なかった。
     スパゲッティ−とサラダ、スープの組み合わせなので女性には丁度良い量だろう。
     名雪は後でビールが出る事を知らないので、普通に食事を進めている。

 

    「今日はおかずの量が少ないね」
    「偶には良いじゃない」

 

     そうだねと名雪は頷いて、スパゲティーを食べる。
     そして、祐一と秋子はお互いに口端を吊り上げて頷いたが名雪は気付いていなかった。

 

    「ごちそうさま」
    「名雪デザートもあるぞ」

 

     えっ、と嬉しそうな声を上げて名雪は食器を片付けて冷蔵庫を開ける。
     だが、上から順番に覗いても何も見つからないので、名雪は頬を膨らませる。

 

    「祐一、嘘はいけないよ。嘘は」
    「冷蔵庫の一番上にあるぞ」

 

     言われた通り、一番上を覗く名雪。

 

    「……ビールしかないよ」
    「それがデザートだぞ?」
    「わたし達はまだ、未成年だよ」

 

     祐一は気にするなと言うが、名雪はむぅと眉を吊り上げて怒っている。
     秋子は微笑みながら、ポンと名雪の肩を叩いていつもの台詞。
     すると名雪はがっくりと肩を力無く落として、秋子に逆らえない自分を憎んでしまった。
     3人はダイニングからリビングに缶ビールを持って移動をする。

 

 

     実に地獄絵図。
     既にビール缶は全て開けられており、一人6本のノルマを全員がこなしている。
     名雪はハイテンションになっており、訳の分からない言葉を何度も繰り返して喋って移動をしている。
     秋子はテーブルにうつ伏せになって眠っているが涎を垂らしながら寝言を言っている。
     が、これはまだマシであった。
     秋子と名雪は服を脱ぎ捨てており、祐一は目を大きく見開き二人の下着姿を瞼の裏に焼き付けている。
     時折、ブラジャーがずれて形の良い胸が零れそうになるたびに祐一は心の中で叫んだ。
     因みに秋子は大人の女性らしく紫の上下セットであり、妖艶さを醸し出していた。
     名雪は水色のブラジャーだが、下着は水色と白のストライプだった。
     祐一は二人の肢体をジックリと眺めており、その顔はにやけている。

 

    「ありがとう、福引の神様」

 

     普段は神なんかいないと思っている割には、こういう時だけ感謝を行う祐一。
     暫らく、悦に浸かっていると名雪が秋子の胸を丹念に揉みだす。
     秋子は眠っているが時々、喘ぎ声が洩れているので感じているようだ。
     祐一はゴク、と喉を鳴らして突貫を行おうとするが、何故か名雪は祐一に向かって手を大きく振りかぶった。
     そして、祐一の頭の上では何匹もひよこが飛んでいる。
     最後に祐一が見たのは、名雪が秋子をソファーに押し倒す前の姿がボンヤリと見えた。

 

 

     翌日、秋子と名雪の絶叫が周辺に響いたので、近所では噂となって主婦の間で持ちきりになった。
     勿論、その理由は祐一にしか分からなかった。
    「もう一度、二人に酒を飲ませてみたい」
     その言葉は祐一の心の中で、常に書き留められている事だろう。

 

 


 

     酒ネタが無かったので、書いてみました。
     福引に関しては特賞は精々、1万円分なので10万円なのは商店街20周年とかで。