コタツで食べるバニラアイスは美味しいですね。
ん〜、やっぱりデリシャスです。
私は木ヘラに白く輝くバニラアイスを掬い口元に運びました。
コタツの熱でほんのり溶けているバニラアイスはやはり格別です。
冬に外で食べるのも良かったですけど、こっちも良いですね。
空っぽになったカップには溶けたバニラがカップの底に浮かんでいた。
「もう、一個食べますか」
私は冷蔵庫に保存してあるバニラアイスに手を伸ばし、カップに手を付けようとした時突然、
乱暴に開けられたドアの音がキッチンまで響き渡りました。
廊下もどたばた走って埃が舞う程になっています。
「しおりぃ〜」
えぅ〜、鬼姉の帰還の様です。
私、今日は何もしていませんよお姉ちゃん。
むっ、何かいつもと雰囲気が違いますね。
何か焦っているようですが……さては祐一さんに振られましたか?
それなら、オールオッケーなんですけどね。
「何ですか。お姉ちゃん?」
私の顔は企み顔からいつも通りの純粋な顔に一瞬で戻しました。
「しおりぃ〜」
がしっ、と私は肩を捕まれました。
私の小柄の体では重いお姉ちゃんなんか支えきれません。
「何があったか言ってくれませんと分かりませんよ。お姉ちゃん」
「り……料理教えてぇ〜〜!!」
どうやら、祐一さんがお姉ちゃんの料理を食べたいと言ったみたいですけど
お姉ちゃんは壊滅的に料理出来ないのに請け負ってしまったみたいですね。
私が唯一お姉ちゃんに勝てる大きなアドヴァンテージは簡単に譲りませんよ。
「取引しましょう。お姉ちゃん」
「何の取引をする気をかしら?」
「何を?分かっているでしょうお姉ちゃん。私が断ったら破局は目に見えてますよ」
ここで軽くジャブを打ち込んでおく。
じゃないと主導権は取れなくなってしまう。
相手はあのお姉ちゃんだから。
「無償での行動はしてくれないのかしら?」
「返事はノーです。この私がアドバイスするのにタダ?私は安くないですよ。
お母さんだってお姉ちゃんには料理教えたくないと言う筈です。特にそんな腕では」
ぐっと堪えるお姉ちゃんが目の前で拳をぷるぷる震わせています。
「くっ……分かったわ。何が望みかしら?」
「分かりきった事を言うんですね。至福を10個ですよ」
すっと手が差し出されます。
どうやらOKのようですね。
私は握手をぎゅっと握り返しておきます。
あたしは栞から協力を得る事に成功したがこれからが問題だ。
まず、あたしは料理は悔しいが全く出来ない。
栞には家庭的な物で勝てる確立は0%に近いだろう。
だけど、今回は頑張らなくてはヤバイのは確かだ。
何と言っても、相沢くんに食べてもらえるお弁当を渡す為だ。
未だに名雪があたしの相沢君を狙っているのだから、ここで負けたら相沢君の心境が名雪の方に僅か傾くかもしれない。
負けるわけにはいかないわね。
あたしは私服に着替え、キッチンに向かった。
髪は料理する時に邪魔にならない様にゴムで適当に纏めており、ポニーテールになっている。
「お姉ちゃん、料理始める前に質問するから」
質問?
首を傾げながら、栞の言う質問を聞き出した。
「料理のさしすせそ言ってみて」
「えっと、砂糖、塩、酢、セロリ、ソースかしら」
……沈黙が痛いわよ栞。
な、何よその視線は……って栞、黙ってキッチンから出て行かないでよ。
「もう、いいです」
はぁ、と大きな溜息付かれてしまった。
「じゃあ、ご飯を炊いてください」
一番簡単で料理とは言いませんからと付け加えられた。
あたしはまず炊飯器から釜を取り出し、お米を釜に4合分いれた。
そして、洗剤を―――ぱかん
栞がお玉を握りながら肩を震わせあたしを睨んでいる。
「何で4合分は分かって、洗剤を入れようとするんですかぁ!?」
「え……洗剤で洗うんじゃないの?」
さっきより強くお玉で又叩かれ、両手で頭を押さえてしまった。
ううっ、栞があたしに手をあげるなんて。
「お姉ちゃん?ふざけないでくださいね」
栞は目は笑っているが顔は笑っておらず、青筋が浮かんでいる。
「わ、分かったわ」
それからもスムーズに進まず、その度にお玉で叩かれた香里は既にダウンしており栞も怒鳴り疲れたようで肩で息をしている。
「えぅ〜、これだと元が取れませんよ」
キッチンの惨劇を見ると焦げ臭い匂いや不思議な物体がばら撒かれており元が分からない程、
汚いキッチン となっており母が見たら気絶するだろう。
「祐一さん死なないでくださいよ。私、栞はやれる事はやりましたから」
遺言に近い台詞を吐き出し、苦笑いをすると
「残したら承知しませんよ祐一さん。お姉ちゃんが精一杯作った物なんですから」
その後、相沢 祐一は生死をさまよったと言う噂が流れた。
本当は砂糖、塩、酢、醤油、味噌ですよ。