外は既に黒とオレンジが交じり合っており、夜が近づいてきたのが分かる。
「ふう、さっぱりしました」
濡れた身体にバスタオルを巻きつけてボブカットの髪を丁寧に拭き始めた。
「久しぶりに体重を計ってみましょう」
仕舞われていた体重計を洗濯機の下から引き出す。
「こ、こんな筈では……」
今度はバスタオルを剥ぎ取って、肢体を晒すが関係無いようだ。
「えぅ……こ、今度こそ」
バスタオルを剥ぎ取ってもメモリは変わる事は無かった。
「こ、こうしてはいられません」
完全に水滴を拭き取れていない肢体を晒したまま風呂場から飛び出した。
「ゴス?」
首を傾げ、勢い良く開けられたドアの下を見ると額を抑えたまま蹲った女性がいた。
「……栞、ちょっと良いかしら」
涙目を浮かべ赤くなった額を抑えながら、栞と呼ばれた少女の襟首を掴んだ。
「ぼ、暴力反対です」
「えぅ、この美少女に手を上げるなんて罰が当たりますよ」
叩かれた頭を抑えながら、まだ余裕がありそうだった。
「それはこっちの台詞よ」
まったく、と言う様に溜息を吐いた。
「所で何、騒いでいたのよ?」
全身をジックリ、芸術を鑑賞する様に眺めるが変化は見られない様だった。
「ちょっと立ってみて、あとジャージも脱いで」
スッ、と言われた通り栞は立ちあがり羽織っていたジャージ脱ぎソファーに投げた。
「ど、どうなんですか?」
首を傾げているのでどうやら言っている意味が分からなかった様だ。
「身長が伸びる可能性があるんじゃないのかしら」
あと胸も、と聞こえない様に呟く。
「運動しないと太る可能性は……」
間髪せず言われ、栞は少々凹んだ様だ。
「だからと言って何も食べなかったりしたら、痩せた後食べたらリバウンドするわよ」
ソファーに投げておいたジャージを羽織り、家から飛び出して行った。
街灯が頼りなく輝いており、暗い空には所々に星が瞬いていた。
「ふう……ようやく普通に走っても平気なくらいになりましたか」
少し前の事を思い出し、空を眺める。
ふう、と息を付き街灯の下で息を整えていると見なれた女性の姿が走っていた。
「あれ? こんばんは栞ちゃん」
ふーん、と名雪は頷いて服装を見て事情が分かった様だ。
「香里と喧嘩したわけじゃないみたいだね」
あんなのしていると余計疲れますし、と笑いながら答えた。
「それにしても、会ったのはあの時の百花屋以来だよね」
あの時とは、バケツサイズのパフェを4人で食べても終わらなかった時だ。
「……栞……栞ちゃん?」
今はもうそんな事無いですけどね、と呟く。
「何があったとかは聞かないけど、もう香里との仲は大丈夫でしょ?」
うんうん、と頷きながら栞の頭を撫で始めた。
「良かったね栞ちゃん」
栞はこそばゆい表情を浮かべ、涙と嗚咽を流した。
「じゃあ、そろそろ行くけど一人で帰れる?」
プクッー、と頬を膨らませながら抗議する栞。
「百花屋であのパフェをまた挑戦しようね」
そして、約束をして二人は帰路についた。
「ただいまー」
出てきたのは母親だったので香里の事を聞き出した。
「お姉ちゃんは?」
栞はここにいない名雪に向けてあやまった。
久しぶりに栞が主役です。