漆黒の様に真っ黒に塗りつぶされた空間で、ボゥと光が点る。
その光は電気より微弱な光り方であり、僅かに室内に明かりが点るのみであった。
光源はボンヤリと光ったままであったが、暫らくするとバックライトが弱まり唯一の光源が消える。
闇の中でカチカチと時計の秒針が時を刻んでいるが、これだけ真っ黒になっている場所では視野にも入らないだろう。
もう一度手に持っている物体を操作してバックライトを点らせる。
何時も使っていた物なのか手際良く操作をするが、ディスプレイに写っている文字を見たまま操作していた指が止まる。
指を震わしたまま、決定ボタンを押すとメモリーに残っていたボイスが再生される。
その声はまるで底冷えしたような声が流れており、復讐を込められた様に何度も繰り返されている。
ちっ、と舌打ちをして持っていた物体―――携帯電話を勢い良く放り投げる。
床に当たった後、フローリングの床にディスプレイの破片を撒き散らす。
その所為でプライベートウィンドとディスプレイに蜘蛛の巣が張られた様にひびが広がっている。
その携帯電話は拾われる事無くフローリングの床に転がっていた。
転がっている携帯電話からは、音が途切れ途切れになりながらもボイスを吐き出していた。
最後はザー、と不愉快なノイズを持ち主の周辺に撒き散らして沈黙をする。
携帯電話を投げ付けた人物―――相沢 祐一は身動ぎをせず、ノイズが出ている方向に焦点の合わない目付きで眺めていた。
暫らくして、祐一はゆっくりと立ち上がり、自分が投げた携帯を一瞥もせずに自室から出て行く。
キィ、と蝶番が軋んだ音を立ててゆっくりとドアが閉まる。
ドアが閉まっても、携帯が発するノイズは途切れる事無く室内を支配していた。
ギシギシ、と不気味な音がフローリングを軋んでおりその音を気にせずに祐一は歩いていた。
リビングにも誰かがいる気配を感じる事は皆無に近く、リビングも祐一の自室の様に闇に同調していた。
僅かに開いていた窓には生暖かい風が入っており、カーテンが風に同調してふわりと揺れる。
誰も暫らく利用していなかったソファーに身を投げ出すと、埃が周辺に舞い散る。
相変わらず虚ろな表情で、何を写しているか分からない底冷えした眼を唯一室内で動いているカーテンに向ける。
突然何かを発見したように目を見開いた祐一は幻想を見たような表情になる。
動いている物は風に揺らいでいるカーテンのみであり、人の気配は相変わらず感じる事が出来なかったが祐一だけが見えている様だ。
ふらりふらり、と祐一は立ち上がり幻想に導かれる様に歩いて行く。
そして、この家に残ったのは伝言メモだけが何時までもノイズを発するだけであった。
この作品は祐一が誰かを助けるのを失敗したルートかもしれないです。
それとも、全員が死亡ルートかも知れないのでその辺は御想像でどうぞ。