春の日差しがカーテンの隙間から伸びており、暖かさを感じる季節が実感しておりこの町の雪解けも近いだろう。
     この部屋の住民、相沢 祐一はまだ布団に包まっておりまだまだ目覚めそうにもなく、熟睡している。
     本日は土曜日、そう学生はまだ眠っている時間だろう。

 

      コンコンと控えめに叩かれたドアに少し反応するがまだ眠っており気づいた様子は無い様だ。
     控えめにドアは開けられ、部屋の中を確認する様に覗き込むと水瀬 秋子は部屋の住民を起こす為に静かに侵入を開始した。
     「祐一さん。起きてください」
     ユサユサと軽く揺さぶられると流石に目が覚めた様だ。
     「な、何で秋子さんがここに?」
     「祐一さんを起こしたかったんですけど……駄目でした?」
     「い、いえそんな事ありませんよ。ただビックリしただけで」
     「あ、挨拶忘れていましたね。おはようございます祐一さん」
     「おはようございます秋子さん」

 

      祐一は私服に着替え、リビングに降りて行った。
     既にテーブルには朝食が並べられており、トーストが焼けるのを持つだけだった。
     「祐一さん、隣町まで買い物付き合って貰えませんか?」
     「ええ、勿論良いですよ」
     「じゃあ、早めに出ましょうか」
     ちらりと時計を確認するがまだ9時を少し回った所だろう。
     「こんな、早く行くんですか?」
     「ええ、その方が祐一さんとデートが長く出来ますし」
     口に含んでいたコーヒーを噴出し、咳き込んだ。
     ごほごほ、と何度も咳き込む。
     「な、な、何を言うんですか?!」
     「そうですか……こんなおばさんとはデートしたく無いですよね」
     俯いて、しんみりした表情を浮かべる。
     「そ、そんな事ないですよ。秋子さんはまだ魅力ありますよ!?」
     「ありがとうございます。じゃあ食べたら行きましょう」

 

      秋子が運転する車に揺られて、たどり着いたのは大きな店であり2階の建物が目の前に建っていた。
     建物は綺麗な外見をしており、まだ建ってから数ヶ月というのが伺える。
     屋上には大きな看板が立っておりこう書かれていた。
     「パーラーKanon」と書かれた文字がLEDで光っていた。
     「秋子さん、ここ何処だか分かっています?」
     「勿論です。パチンコ打ちに来たんですよ」
     当たり前の様に答える秋子だが、祐一には物足りない答えだった。
     「それにしても秋子さんがパチンコ打つなんて思いませんでした」
     「あら、偏見はやめた方が良いですよ」
     話ながら台を取る為に列に並び始める。
     「こう見えてもかなり勝っていますよ」
     「どれくらいですか?」
     秋子はポーチから皮製の手帳を取りだしぺらぺらとページをめくる。
     「えっと、去年は532万3000円勝っていますね」
     秋子は巨額をさらりと言いだす。
     「まじですか?」
     「手帳見てみますか?そうすれば分かりますよ」
     受け取った手帳にはビッシリと収入と支出が細かく書かれ、選んだ台の名前と台番号と店の名前が書かれていた。
     更に1000円当たりの回転数までも書かれており驚愕の表情を浮かべる祐一。
     「凄いですね」
     「凄くは無いですよ。もうちょっと勝てると良いですけどね」
     「秋子さん、もしかして……これが秋子さんのお仕事ですか?」
     「ばれちゃいましたか」
     子供みたく、ちらりと紅い舌を出し、秋子は微笑んだ。
     「これから開店を開始します」
     店員がハンドスピーカーを持ちながら並んでいる方に向かう。
     少しずつ、並んでいる人達が動き出し、店内に入っていた。

 

       店内は修羅場の様に台取りが行われており、秋子もサッと釘を見ながら移動を繰り返して一台、純白のハンカチで確保した。
     データランプには189番となっており前日15回、前前日12回と表示されており上がり調子の台を確保した。
     データロボで前日の調子を確認すると中心に引かれている線から
     序盤は下がっており、中盤は少し上がり調子に戻り、終盤で上がり下がりを
     繰り返している線グラフが表示されている。
     「早い内に当たらなかったら移動した方が良さそうですね」
     そう呟くと、秋子は祐一を探し出した。

 

      祐一が取った台は秋子と同じ様な上がり調子の台を取っているがスペックの荒い台―――大当たり確率1/450.6と書かれていた。
     しかし、確変突入率は今までの台と違い68%となっており確変を早めに引けば連チャンが期待出来る台、新内規を選んでいた。
     「どれだけ早く当たり、連チャンするかだな」
     祐一は財布を覗き込むと福沢さんが一枚、夏目さんと野口さんの新旧が3枚入っていたが、
     今のパチンコは1時間で二万円飛ぶ事もあるので死活問題だ。
     「うぐ……これはヤバイかも知れない」
     一万円で当たらなければ止めだなと呟いた。

 

      10時になりハンドルを握り、打ち出しを開始した。
     銀玉が流れ出し、天釘に当たりカツンと下に向かっていた。
     ワープ釘は開いており、良く入っていく。
     ワープに入った釘は程よく、へそに入賞をしておりかなり回っている。
     秋子の台は1000円で28回と優秀な台だが祐一の台は1000円20回と標準の25回から大きく下がっており厳しそうだ。
     リーチと声が聞こえ、予告は群が出現で信頼度アップした。
     ピクリと秋子の眉間が動き、確変絵柄の3が停止した。
     つまり、秋子は確変大当たりとなり次回の大当たり確定となった。
     ふう、と軽く息を吐くと大当たり画面に移転した。
     アタッカー周辺の釘はやや閉まっており出玉は1700付近だろう。

 

      そのころ祐一は苦戦しており投資を繰り返し、遂に一万円目が投資された。
     「うう、これで終わりか」
     リーチは4×5のダブルで予告はキャラカットイン発生した。
     激熱リーチに発展し、長いリーチ画面が流れる。
     「スキップしてえ……うし!!」
     どうやら、当たりを引けた様だが
     「4かよ。成り上がれぇ……ちっ」
     確変に昇格しなかった様だがどうやら時短に期待するようだ。
     打ち出された玉はスルーを通らず時短中に玉減りが起こっていた。
     つまり、当たりの玉が減り、箱から玉を減らしている状態だった。

 

      「起きないから奇跡か……うぐぅ」
     どうやら一箱丸々飲まれ、逆転が出来なかったようだ。
     しかも、やめた途端に別の人が座りお座り一発で確変を当てていた。
     オカマを掘られた祐一だったが、秋子は既に10箱積んでおり、未だに確変継続中であった。
     帰る訳にも行かない祐一は秋子の台を見ているしかなかった。
     確変大当たりのプレミアムが登場し、もう一度確変が続く。
     祐一はただ見ているしかなかった。

 

      結局、秋子は3000円の投資で24箱積んでおり、勝ちは決定している。
     時短終了後200回まで回したが熱い予告が出なくなり賑やかだった台が静かになった瞬間秋子は終了した。
     秋子の出玉は40000近く出しており、この店は換金率3.03円なので
     121000円を稼ぎ出し、そこからたったの3000円引いて118000円の勝ちだった。

 

      「ごめんなさいね。祐一さんこんな時間まで付き合ってもらって」
     「いえ、気にしないでください」
     他愛のない会話を繰り返し、買い物済ませ帰路に向かっていた。
     「だから秋子さんの仕事は企業秘密なんですね」
     「ええ、この仕事は知られたくありますから」
     特に名雪にはと呟きが聞こえた。

 

      帰宅した二人だったが玄関を空けたら、そこには大魔人が腕を組みながら立っていた。
     「お母さん。私の祐一とどこに行っていたのかなぁ」
     大魔人は顔に青筋を立てながら秋子を睨んでおり怒髪天になっている。
     「ちょっと、大人のデートに行ってきました」
     祐一の腕を組みながら答える秋子。
     名雪に油を注ぎまくった秋子はしれっとした顔で名雪の怒り受け流した。
     「さあ、晩御飯の支度しないと」
     その日、水瀬家には怒声がパチンコ店よりうるさかったと言われた。

 


 

     分からない人ごめんなさい_| ̄|○
     分かる人はこういう天国と地獄を味わっているいるだろうな。