くそ……
     俺は心の中で毒気付くと身を投げ出し、シャープペンを机の上に放り投げる。
     机の上には教科書とノートが置かれており勉強中だと伺える。

 

     「こっちに来てからまともにノートが取れてないな」

 

     ふうと軽く溜息を吐きイスから立ち上がり、俺は壁に掛けている時計を見上げた。

 

     「コーヒーでも飲も」

 

     時間は1時25分を指していた。

 

 

 

     コーヒーパックから適度にコーヒー粉を掬い、ドリッパーに付けたコーヒーフィルターに粉を落とした。

 

     「色々あったからって言い訳したくないなぁ」

 

     考えてみるともう既に1年以上こっちに住んでいるような錯覚が受ける。
     それほど農密度の生活だったわけだ。
     おっと、お湯が沸いたか。

 

 

 

     「あら、祐一さん。まだ起きていたんですか」

 

     秋子さんは三つ編みを解いており、毎日見ている雰囲気とは違った。
     なんと言うか何時もより綺麗なのは確かだが、言葉が見つからなかった。

 

     「ええ、期末テスト前ですしね」

 

     俺は考えている事が悟られないように熱めのコーヒーを飲みながら会話を続けた。

 

     「秋子さんもコーヒー飲みます?」
     「祐一さんが淹れたコーヒー飲んでみたいですし、いただきます」

 

     俺は秋子さんのコーヒーカップにコポコポとコーヒーを淹れて手渡した。
     秋子さんはカップに口をつけて飲み一言こう言った。

 

     「おいしいですよ。でも少し時間経ってから淹れた方が香りはもっとでますよ」

 

     俺は評価にガッカリして、肩から力が抜けて行った。

 

     「また、飲ませてくださいね。名雪がいない時にでも」
     「勿論。良いですよ」

 

     心の中でガッツポーズをして歓喜の叫びが上がった。

 

     「コーヒー淹れるの上手ですね。祐一さん」

 

     改善の余地はありますけどね。と秋子さんの呟きが聞こえた。

 

     「そんな事無いですよ。秋子さんには敵いませんよ」

 

     おいしいと言ってもらっただけでも嬉しいんだがな。

 

     

 

     

 

      「そろそろ寝ますね。祐一さんはまだ勉強続けるんですか?」
     「あと少しやってから寝るつもりです」

 

     リビングに掛けれている時計は2時5分を指しており、そろそろ終わらせて寝ないと明日が辛いだろう。
     名雪も起こさなければならないし……はぁ。
     「明日、わたしが名雪起こしますから祐一さんは起こさないで良いですよ」
     秋子さんにはやっぱり見通しだった。

 

     「でも、それは……」
     「良いんですよ祐一さん。遠慮はいりませんよ」

 

     断ろうとしたがやんわりと言われたら断れなかった。
     結局一度断ったが俺が折れて、明日は秋子さんが名雪を起こす事になった。

 

     

 

      「では、お休みなさい。祐一さん」
     「お休みなさい。秋子さん」

 

     俺は階段を上がろうとした時、秋子さんから声が掛かった。

 

     「ちょっと、横向いてくれます?」

 

     言われるがままに横に向いて、暫く動きが無く静かだった。

 

 

     ―――ちゅっ

 

 

     え、えっ、ええっ?!……これは俗に言うキスですよね?
     頬に軽く触れるようなキスだが俺は舞い上がってしまった。

 

     「ふふっ、ではお休みなさい。祐一さん」

 

     俺は暫く放心状態になっており、秋子さんが部屋に戻ったのは気づかなかった。
     今の感触を何度も思い出す。
     だらしなくにやけているのが自分でも分かる程、弛緩している。
     部屋に戻って時計を確認して気合をいれた。

 

     「よっしゃ、やるか」

 

     こうして、勉強ははかどって進んで行った。

 

     

 

     

 

      テストの結果?それはキスを貰った時点で分かるだろ。

 

     こんな秋子さんが好きです。