外は闇に包まれており、街灯と家から漏れる光が町を明るくする。
     そして空には瞬く星と月が見えていた。
     都会と違い、この町は既に眠りかけている。
     例外はコンビニ周辺のみが明るく、この場所だけは眠らない場所になっている。

 

     

 

      コンビニに客はおらず、がらんとしており店員は暇そうに欠伸をしている。

 

    「あ〜、暇だ。これだから田舎のコンビニは」

 

     これならレジに立たなくても、と思ったこの店員の名は相沢 祐一という。

 

    「時給が良くても、ここまで暇だとは思わなかった」

 

     都会と違いこの町は眠るのが早いので殺伐したコンビニとなっている。
     現在の時間は深夜1時前を指しており、眠気が襲ってくる頃だろう。
     ふぁ、と軽い欠伸を噛み締めると客が一人入ってきた。

 

    「いらっしゃい……ませ」
    「あら、相沢君。挨拶は店員として基本なのに基本が出来てないわよ」
    「ちっ……香里かよ」
    「ふん、随分なご挨拶ね」

 

     会話を打ち切り、香里は篭に様々な物を詰めて出した。

 

    

 

      買い物篭にはバニラアイスと雑誌が入っており、頼まれた物だと分かる。

 

    「バージニア・スリム・ライトメンソールあるかしら」
    「……香里吸うのか?」
    「あら、あたしが吸わないと思っていたの?」

 

     意外そうに香里を見る祐一だが、何も言わずに棚から取り出した。

 

    「未成年には売ってはいけないんじゃないのかしら?」
    「ふん、見なかった事にしておく」

 

    会計を打ち終えると乱雑に袋に詰め込んで、香里に渡す。

 

    「おい……金はどうした」
    「奢ってくれないのかしら?」
    「はっ、何故奢らないといけないんだ」

 

     ちらりと目を細めて、呆れた表情をする香里。

 

    「分からないのかしら?」

 

     分かるかと言う表情を浮かべる祐一。

 

    「ああ、分からないのね。ならば言ってあげるわ。
     あたしを振ったんだからそれくらいはしなさい」

 

     香里は踵を返して自動ドアに向かって行く。

 

    「ちょっと待ちやがれ」

 

     しかし、香里はそのまま袋を持ち何も聞かずに出ていった。

 

     

 

      煙草の封を開け、一本取り出し口に咥えライターを探す為にポケットをまさぐる。
     ちっ、と舌打ちすると封を切られたばかりの煙草を戻す。
     並木通りは切れかかっている街灯が点滅を繰り返している。
     香里はちらりと見上げるが、木に隠れた月と街灯が点滅して合図しているように見えた。

 

    「まったく、この時間に相沢君に会うなんてね」

 

     確認する様に呟き、失笑が漏れる。
     祐一のバイト時間を知っていた訳では無い。
     そう、ただの偶然だった。

 

     

 

    「今日は2月1日か……」

 

     香里がしている腕時計にはそのように表示されている。
     腕時計が表示されていなくても香里は覚えているだろう。

 

    「あれから一年か」

 

     舗道された石畳を歩きながらあの時を考える。
     じゃり、と石を踏み続けて、ある場所で止まった。
     眼前には立派な石が飾られていた。
     その石は墓石であり美坂家乃墓と掘られていた。

 

    「ほら、土産よ」

 

     どさどさと袋から先ほど買ったバニラアイスと雑誌を適当に置く。
     墓前に置かれていたマッチに手を伸ばし、先ほど仕舞った煙草に火をつける。
     ぼぅ、と灯されたマッチはボンヤリと香里を照らしていた。
     火を軽く見つめるが、ふっと息を吹き掛けて消えた。

 

    「あなたが惚れていた相沢君、たいした事無かったわよ。
     あたしを栞の代わりとして扱ってくるしね」

 

     だから、あたしから振ってあげたわと囁く。

 

     

 

      石畳に座りながら墓に寄り掛かり、月を見上げる。
     煙草の灰を落とし、また咥える。
     吐き出された紫煙は夜空に向かって消えて行った。

 

    「ん……そろそろ、行くわね」

 

     もう来る事は無いでしょうと付け加える。
     立ち上がり、手に持っていた煙草を墓に押し付けて揉み消す。

 

    「じゃあね、栞」

 

     墓から背を向けながら、手を振り闇に消えていった。

 

     

 

      残ったのは供えられたバニラアイスと雑誌がその存在を示していた。
     そして、捨てられたバージニア・スリム・ライトメンソールがその場に残った。

 

 


 

     煙草ネタが合いそうなキャラは香里でした。
     そしたら、こんなのが出来ました。
     俺は吸わないのにネタに走ってしまった。