がちゃがちゃ、と何かの音が僅かに響いてくるが似たような種類の音が多いので分からなかった。
     ドアが開けっぱなしだったので、聞こえやすかったのもあるだろう。
     あたしは読んでいたファション雑誌をベッドの上に放り投げて、部屋を出てリビングに向かう。
     香ばしい匂いがするわね……キッチンかしら。
     玉子や、小麦粉が乱雑に散らばっており、何かを作っているのは分かるけどお菓子類としか分からないわね。
     栞がキッチンにいるのは不自然じゃないけど何故、相沢君が手伝っているのよ。

 

    「よっ、香里」

 

     あたしも相沢君に合わせて、同じように挨拶をする……じゃなくって!!
     何で家にいて、キッチンに立っているのよ。

 

    「これにはふかーい訳があるんだ……栞に脅されたという事実が」

 

     一瞬だけ相沢君の顔が歪んだような気がしたけど、気のせいかしら。
     栞は自分の腕を相沢君の腰に回しているみたい。
     なんか、むかつくわね。
     除け者にされているみたいだし、退散するしかないわね。
     あたしがキッチンから出て行こうとしても、栞は何かを作るのに没頭している。

 

    「お姉ちゃんは邪魔ですから、部屋に戻って下さいね」

 

     はいはい、あたしはどうせ料理できませんから邪魔ですよ。
     あたしは駆けぬけるように自室に戻って行く。
     溜息を吐いて、あたしはベッドの上に横になり不貞腐れながら雑誌を読み直す。

 

 

     ……何時の間に眠っていたみたいね。
     あたしは壁に掛かっているシンプルな時計を眺めると、30分程しか時間は経っていなかった。
     寝ている間に握り締めていたのかもしれない買ったばかりの雑誌は、皺が寄っていたのは少しショックだった。
     それにしても、嫌な夢見ていたけど……なんだったかしら。
     夢よりもこれから何かが起こりそうだし、そっちの方が楽しみね。
     暇潰しにあたしはベッドサイドに置いてある携帯電話に手を伸ばす。
     ……名雪か北川君に電話して時間を潰すか。
     どう言う事かしら? 二人ともまともに取り合わないなんて。
     どもりながら会話されたから、何かあるのは分かるけど何の日かしら?
     カレンダーを覗くと、今日は3月1日となっている。
     ……ああ、今日はあたしの誕生日か。
     だから相沢君が家に居たり、名雪と北川君が余所余所しかったのね。
     相沢君は何かを企んでいそう……じゃないと栞の手伝いはしないでしょうし。
     まぁ騙されたり、脅かされるのも良いわね。
     なら、思いっきり知らなかった振りをして楽しみますか。
     あたしはさっきまで不貞腐れていたのが馬鹿馬鹿しくて、クスッと笑ってしまう。
     さて、呼び出されるまでコンビニで時間を潰しておきますか。

 

 

     ん、ジーンズのポケットに入れてある携帯が振動を繰り返している。
     あたしは着信者を確認せずに受話に出る。

 

    「お姉ちゃん、そろそろ帰って来てください」

 

     あたしは返事だけをして受話を切ってしまう。
     何も買わずに帰るので冷やかしに近いだろうけど、まあ良いか。
     携帯に表示されている時計を覗くと17時過ぎを示していたので、あたしは急ぐ様に家に帰って行った。
     家の前に付くと、あたしは小さく息を吸って整える。
     どきどきしている心臓を押さえつける様にして、玄関をくぐる。
     パーンと僅かに火薬の匂いが充満して、クラッカーに入っている紙があたしに降り掛かる。
     いきなりクラッカーの洗礼を受け、あたしの顔は多分驚愕に満ちていると思う。

 

    「香里、誕生日おめでとー」
    「お姉ちゃん、誕生日おめでとうございます」
    「美坂、これで栞ちゃんを覗いて俺達と同じ年齢だな」
    「香里、これで又1つ年を取ったな」

 

     ……誰かの言葉以外は素直にお礼を言っておく。
     さて、相沢君ちょっと良いかしら?
     相沢君は逃げようとするが、あたしは栞と名雪にアイコンタクトを送る。
     ガッシリと相沢君の両脇を押さえ込んでもらう。

 

    「おい、こら二人とも放せ」
    「祐一が悪いからしょうがないよ」

 

     名雪の言葉に栞と北川君も頷いている。
     あたしは相沢君に近付いて思いっきり、相沢君の両頬を強く引っ張っておく。

 

 

     テーブルには彩りがある食べ物が並べられており、その中心には先ほど栞が作っていた思われるケーキが鎮座している。
     あたしの横に栞と名雪が座り、対面には相沢君と北川君が座っている。
     相沢君はテキパキと18本のローソクに火を付けていく。
     ゆらゆらと揺れる火を眺めているとバースディソングが歌われる。
     不意に流れた涙を気付かれない様に拭い、平常心にする。

 

    「まずはケーキカットからだな」

 

     相沢君は手際良く、スッとケーキを切っていく。
     ……何かケーキの中心部に埋まっているんだけど。
     相沢君はその物体が分かっているのかケーキが崩れない様にゆっくりと抜き出す。
     四方4cm程の箱は蒼く、高級感を醸し出していた。

 

    「香里、これが俺の誕生日プレゼントだ」

 

     相沢君から手渡されて、あたしはどきどきしながら開けて見る。
     その箱の中心には、銀色の細工が施されたシンプルな指輪が埋め込まれていた。
     えっと……どういう事かしら?

 

    「ふむ、結婚してくれという意味だが?」

 

     栞や名雪、北川君は元から分かっていたように口元を吊り上げてニヤニヤとしている。
     はぁ……まさかこういう手段で来るとは思ってなかったけど、良いわ受け取ってあげる。
     これからもよろしくね、相沢君。

 

 


 

     一番迷ったのは17歳の誕生日か18歳かで迷いました。