あたしは、年下の彼氏がいる。

 なんとまだ彼は高校生。あたしは大学生。

 たまに話の年代のズレみたいなのが生じると切ない。でも、彼と一緒にいるのはとても幸せ。だから、年なんて関係ないと思ってる。

 弟のように可愛がっていたのに、気づけば彼氏。

 毎日が幸せだった。でも、それは突然に、危うい関係へとなってしまったのだ。

 世間に否定されてしまう、関係へと。

 夕食のときの母の言葉を思い出す。


「母さんね、再婚することになったのー!」


 嬉しそうに、幸せそうに、母は言った。物心ついたときから父親がいなかったあたしに、この歳になってパパができるらしい。

 あたしに相談もしないでいきなり。もう、本当ビックリ。

 でも、母さんの幸せそうな顔を見てたらまぁいっかと思わせる。


「良かったじゃない。で、相手は誰なの?」


 あたしが知ってる人なわけないか、と思いつつ一応聞いてみる。


「あんたも知ってる人よー。ほら、弟のように可愛がってたじゃない、息子さん」

「は――――?ちょ、ちょっと、まさか……」


 嫌な予感がする。それは的中してしまう。


「そ。あの人と再婚するのよっ。これからは姉妹になるのよ?良かったわねー」


 全然良くないっ。

 そういえば、あの家は父子家庭だった。でも、そんな低確率なことが起きるなんて予想できるわけないじゃんっ。

 この話はあっちでもされたのだろうか?

 よし、後で電話してみよう。


「はぁ……。もう、あたしたち、どうすればいいんだろ……」

 自室で、気分はブルー絶好調。最悪すぎる。思い出すんじゃなかった。

 あたしたち、これからどうなるんだろうか。

 入籍は、一週間後らしい。その間だけしか、恋人としていられないなんて――――。


「う、うぅ……ぐすっ……」


 涙が、止まらない。











おねーさん 3












 折角のデートだというのに、あたしも彼も何も喋らない。いや、喋れない。

 あんな衝撃事実を受け止めることなんてできない。

 ねぇ、あたしたち、これからどうなるの?

 聞きたい。でも怖い。このまま、姉弟へとなってしまうの?

 結婚までとはいかないけど、恋人として一緒に歩くことはできなくなってしまう。


「なぁ、姉さん」

「……なに?」

「……俺たちさ、このままじゃ望んでいない家族関係になっちまうよな」


 彼の方を向けば真剣なまなざしであたしを見ていた。

 かっこいいなぁ――――って、見とれてる場合じゃないってば。


「そうだね……そうなると思う」


 それが、現実だから仕方ないよ。


「俺、親父に抗議してくる。再婚なんてやめるように――――」

「ダメ!」

「えっ?」


 あ、声大きすぎちゃったかな。驚いている。

 でも、それだけはダメ。


「……何でか、聞いていいか?」

「……母さんはとても幸せそうに再婚の話してたんだよ?

 それをあたしたちで壊しちゃうの?……平気で壊せるの?」


 それを聞いた彼は黙って俯いてしまった。

 ぽつり、と彼が言葉を紡ぎだす。


「親父さ……嬉しそうに再婚の話してたんだ。俺たちが姉弟になることも、良かったなってすごい笑顔でさ……」


 心が痛い。子供としては、再婚させてあげたいよ。これは本心。でも、でもね?

 あたしたちも、結婚して幸せな家庭を作りたいっていう気持ちが、心の奥にあるんだよ。

 心の中で、気持ちがぶつかり合っている。

 整理なんて、どうやってつければ良いものか。


「……ははは……どうしようもない。逃れることなんて、できないな……」


 乾いた自嘲的な笑い。

 そう、打つ手がない。追い込まれてしまっている。

 このままあたしたちの関係は終わってしまうのだ。

 壁をぶち破る手段なんてない。


「あと6日だけだね。あたしたちの恋人関係も」

「そうだな……。なら、僅かな時間しか残されてないんだ。恋人をしよう。時間が勿体無いぜ?」


 ニコっと、笑いかけてくれる。彼も辛いハズなのに……。その笑顔にあたしは癒される。

 こんなにも愛しいのに。

 姉妹になれば、ずっと一緒にいられる。けど、それは違う。何かが違う……。


「ねぇ、あたしお腹空いたー」

「んじゃ、あそこのファミレスでも入る?」

「うんっ」


 時間は少ない。一刻たりとも無駄にしたくない。

 あたしはすっと彼の腕に自分の腕を絡ませる。

 少し、体重を彼にかけて。


「いこっ」

「……おう」


 顔が少し赤くなっている。たぶんあたしも。

 腕を組むことて真っ赤になれちゃうあたしたちは、幸せだ。

 今は幸せだから、良い。後のことなんてそのとき考えよう。


 ――――カランカランっ。


 カウベルの音が、やけに儚く聴こえた。











 過ぎ去る日々は、とてつもなく早くて。

 あたしたちは、恋人として一週間を過ごした。

 終わりを迎える。

 あたしたちは、明日から家族として過ごすために、おじさんの――――お父さんになる人の家に集まっている。


「明日からよろしくな!」

「こちらこそ……ほら、挨拶なさい」


 母さんの焦らせる声が、つらい。

 挨拶してしまえば終わってしまう――――。

 挨拶しなければ、二人を終わらせてしまう。


「……どうしたの?」


 あたしを心配する母の声すら、今は聞きたくない。この場にすらいたくもない。

 つらいよ……どうすればいいの……?ねえ、教えてよ……。誰か……ねえ。


「親父、おばさん……俺は、あなたたちの結婚を……心から祝いたい。けど……けどっ!」


 彼が、溢れ出る水のように、感情を弾き出す。

 ダメ――――。

 あれ?声がでない。ダメだと思ってるのに……何でだろ?

 母たちの驚いた顔を見ると、すぐ気づいた。

 あぁ、そっか……。


「あたしも、この結婚を……心の奥では望んでないのかなぁ……」

「え――――?」


 母が、あたしを凝視する。何でそんなこと言うの?と。

 それはすぐわかる。彼が、全てを伝えてくれる。

 あたしよりも年下……高校生という子供だけど、全てを任せれる男の子。

 姉さんと慕う姿からは想像できないけどね。


「けどよ……俺と、姉さんも――――愛し合ってる。あなたたちが結婚したら……俺と姉さんは、結婚できない。

 ずっと一緒にいることはできる……でも、違うよな。姉弟じゃ、違うよな!」


 彼が、言葉を吐き出す。その姿は、見ていてつらい。


「俺たちは、そんな関係になりたくねぇ!だから――――この再婚は反対する……わりい。マジでこれは譲れないんだ」


 あたしは、彼の左手に、右手を重ねる。

 大丈夫。あたしもいるから。一人じゃないから。

 震えている手をぎゅっと握り締める。


「……ありがと、姉さん」


 ニコっと微笑む彼。うわわっ、可愛い笑顔っ。

 じゃないくて……今は違うってば。


「で、そっちの主張はどう?」


 彼が、母さんたちに緊張した声で聞き返す。

 さあ、どうくる?母さんたちは一筋縄ではいかないとあたしは思ってる。

 心の中で、身構える。


「そうか。お前らそんな関係だったんか。んじゃお前ら結婚しとけよ。

 それで良いだろ?母さんもよ」


 すでに母さんって呼んでるんだ――――って、え?


「そうね。私たちは一度結婚を経験してるしね」


 綺麗な笑顔で、母さんはそう返事した。


「あ、はは……拍子抜けしちゃったね?」

「まったくだよ……ま、良かったかな。ね?姉さん」

「うんっ」


 あたしは嬉しくて、彼にキスをする。

 彼は少し驚くが、目を瞑りキスに没頭する。

 その姿を微笑んで見ている母親と、おじさん……いや、父親。

 拍子抜けしちゃったけど……あたしたちはハッピーエンドだから良いよねっ。











 あれから、あたしたちは一つの家で暮らすことになった。

 何一つ問題もなく、時間は進んでいる。

 可愛い弟とは、変わらず恋人の関係を続けている。

 ……朝、声が大きかったな、とか父さんにからかわれたりもしちゃうけど。

 幸せだから、良い。


「起きてるー?」


 あたしは、ノックもしないで彼の部屋に突入。


「良い朝だよっ」


 布団でもぞもぞしてる彼の頬っぺたにキスをする。


「姉さん……?」

「うんっ。朝だよー」


 寝ぼけてるなぁ。可愛い。


「おはよっ」

「おはよう……姉さんは元気だね」


 今日も一日が始まる。

 変わらない幸せな日々。


 あたしは、可愛い彼の頬にちゅっと軽くキスをするのであった――――。







おわり


あとがき

 これが、私の限界です。お姉さんをヒロインにしている意味無し……これはこれでありってことで(汗。

2006/1/31 つきみ


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